コラム

広域連続強盗に見られる「ピンポイント強盗」 対策の一丁目一番地は?

2023年02月03日(金)11時05分
実行犯のイメージ

犯行グループはあの手この手で家のドアを開けさせようとする(写真はイメージです) liebre-iStock

<犯行グループは振り込め詐欺から広域強盗へシフトした可能性が高く、それは「高いコスパを期待できるから」と犯罪学者の小宮信夫氏は述べる。なぜ今なのか。どうすれば被害を防げるか>

各地で広域強盗事件が相次いで摘発されている。報道によると、フィリピンを拠点にしている指示役が、SNSの「闇バイト」で実行役を集め、スマートフォンでターゲットの家を指示していたという。こうした報道を分析すると、次の特徴が浮かび上がってくる。

一連の広域強盗事件は、振り込め詐欺から強盗へのシフトを意味している可能性が高い。なぜなら、犯行グループは広域強盗事件が起きる前からだましの電話をする「かけ子」や、被害者から金品を受け取る「受け子」をSNSで募っていたからだ。

それが強盗へシフトしたのは、強盗の方が高いコストパフォーマンスを期待できるからだろう。

振り込め詐欺では、だまされた人に出会うまで多数の人に電話をかけなければならない。さらに、だまされた人が出ても金を受け取るために面倒な作業が生じる。つまり、犯行のコストが高い。

一方、強盗事件のコストは手口により異なる。伝統的な強盗では、窓や玄関を無理やりこじ開けるのでコストが高い。しかし、宅配業者などを装って玄関を開けさせる「ピンポイント強盗」では、犯行のコストは低い。一連の広域強盗事件の多くはピンポイント強盗である。

なぜ「ピンポイント強盗」が起きるのか

「ピンポイント強盗」と呼ぶのは、犯行グループが、あらかじめ「多額の金品がある家」を知っていて、ターゲットをピンポイントに絞っているからだ。伝統的な強盗では、家に入ってみなければどのくらいの金額が手に入るか分からないが、ピンポイント強盗では、どのくらいの金額が手に入るか事前に分かっているのである。

このようにピンポイント強盗は犯行のコストが低い。しかし、振り込め詐欺に比べてリスクは高い。振り込め詐欺では、金の受け取りに出向くまで捕まることはほぼないが、強盗は、逮捕される確率が高く刑罰も重い。もっとも、リスクが高いのは実行役だけで、指示役は安全圏にいることが多い。

要するに、ピンポイント強盗は犯行グループの上層部にとっては犯行のコストとリスクが低い。それゆえ、振り込め詐欺からピンポイント強盗へのシフトが起きるのである。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story