コラム

「最も高度な政治ゲーム」自民党総裁選のカギを握るあの人物

2021年09月18日(土)11時44分

「野田氏立候補」の影響をどう読むか

岸田派(宏池会)を除く各派閥は今回の総裁選にあたり「自主投票」または「複数候補を支持」することを認める緩やかな策をとっており、また推薦人として名を出すことにはそれなりの覚悟がいることから、各議員の「信念」に基づく推薦行為だという説明がまずはあり得る。

また、野田氏の立候補は、党員票に限定して考えると実は同じ「女性総裁候補」である高市氏と票を分ける効果の方が高いとする説もあれば、二階幹事長と野田幹事長代行の間の信頼関係を重視する説、あるいは竹下派(平成研)参議院の独特の動きとの関連を指摘する声もある。

しかしいずれにせよ、通り一遍の解釈ではなかなか了解のいかないのが、日本で行われる「最も高度な政治ゲーム」とされる自民党総裁選だ。権力闘争における「冷徹な計算と戦略」が「人間的な嫉妬と恐怖」と表裏一体であることは、ホッブズが17世紀に見抜いた通り。自己保存本能が議員を突き動かし、その行動原理は多重的な意思の錯綜と利害の調整の上に成立する。

2012年の総裁選で決戦投票における逆転勝利を安倍晋三前首相にもたらした菅首相(無派閥)は17日、「河野太郎行革相を支持する」と述べ、森山裕国会対策委員長(石原派=近未来政治研究会)も16日に河野支持を表明しているが、二階幹事長の意向は伝えられていない。果たして河野氏が1回目で過半数を獲得するのか、それとも決選投票で岸田氏が逆転勝利するのか、あるいはネット上で高い人気を誇る高市氏が台風の目になるのか。13日間の総裁選は短いようで長い。

20240618issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月18日号(6月11日発売)は「姿なき侵略者 中国」特集。ニューヨークの中心やカリブ海のリゾート地で影響力工作を拡大する中国の「ステルス侵略」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金融大手の気候変動での結託は独禁法違反、米下院司法

ワールド

国連、イスラエルとハマスを「子どもの権利侵害」リス

ビジネス

「バーゼル3」最終規則、EUが適用を1年延期へ=B

ワールド

プーチン氏、トルコ大統領との会談希望 7月の上海協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 5

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 6

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 7

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 2

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story