コラム

中国は警戒を露わに...AUKUSによる豪への「原潜」協力は、本当にコストに見合うか

2023年03月15日(水)11時53分
AUKUS首脳会談後の会見

AUKUS首脳会談後に会見を開いた豪米英3カ国の首脳(3月13日) Leah Millis-Reuters

<中国が台湾を支配する能力を高めてことが明らかになった一方で、米英それぞれの国内からも今回の協定を疑問視する声は上がる>

[ロンドン]英国のリシ・スナク首相は13日、米カリフォルニア州サンディエゴでの米英豪3カ国首脳会談で「この1年半の間に私たちが直面する課題は増えた。ロシアによるウクライナへの不法侵攻、強まる中国の自己主張、イランや北朝鮮の不安定な行動...。すべてが危険、無秩序、分断という世界の脅威をつくり出している」と危機感をあらわにした。

米英豪3首脳がサンディエゴに結集したのは、インド太平洋における中国の影響力に対抗する原子力潜水艦による抑止力強化を宣伝するためだ。2021年に米英豪が結んだ安全保障協定AUKUSに基づき米英潜水艦のオーストラリアへのローテーションが早ければ27年に始まり、オーストラリアは2030年代に米国からバージニア級原潜を最大5隻調達する。

オーストラリアは英国に次いで2番目に米国の原子力推進技術を提供される同盟国となる。原潜はディーゼルエンジンを使った既存の通常動力型潜水艦より速く、遠くまで行動できる。これでオーストラリアは「通常兵器」による長距離攻撃能力を獲得する。その後、英ロールス・ロイス社製原子炉を含む最先端技術を用いた新艦隊の創設にも取り組む計画だ。

英国は今後2年間で国防予算に50億ポンド(約8150億円)を追加し、国内総生産(GDP)の約2.25%に増加させる。当面の目標は2.5%だ。うち30億ポンドはAUKUSに基づき抑止力を強化するため原子力事業の近代化に充てられ、残り20億ポンドはウクライナに送られた弾薬の備蓄を回復し、武器のサプライチェーンを再構築するために使われる。

「中国に挑発的な態度を取り続ければ協力分野に影響が」

スナク氏は「英海軍はオーストラリア海軍と同じ(原子力)潜水艦を運用することになる。米海軍とも部品やコンポーネントを共有する。潜水艦の乗組員は一緒に訓練し、一緒にパトロールし、一緒に艦を整備する。AUKUSを通じて核不拡散の基準を高めることができる。初めて大西洋と太平洋で3カ国の潜水艦艦隊が共に活動することになる」と強調した。

中国側から見れば、オーストラリアが近い将来、獲得する原潜に搭載される「通常兵器」が「核兵器」に切り替わらないという保証はない。中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報(英語版)は「中国に対する英国の厳しい姿勢は米国の戦略的目標に応えるとともに、英米特別関係を強化するためだ」との欧州専門家の分析を伝えている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、FRB当局者は利下げに慎

ワールド

米、ウクライナ軍事訓練員派遣の予定ない=軍制服組ト

ビジネス

米国株式市場=ナスダック最高値、エヌビディア決算控

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story