コラム

中国が示すウクライナ停戦案に隠された「罠」と、習近平がロシアを庇護する3つの目的

2023年03月21日(火)13時41分

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は17日「モスクワでの首脳会談で中国側が提示する停戦案は決して支持できない。ロシアを利するだけだからだ。現時点での停戦はロシアの侵略を事実上承認するものだ。ロシアは停戦を利用して防御を固め、部隊を立て直し、好きな時にウクライナを攻撃できるようになる」と批判した。

プーチンは18~19日、ウクライナ南部クリミア半島の軍港セバストポリと東部ドネツク州の要衝マリウポリを訪問した。不法な占領による安定を既成事実化するためだ。一方、国際刑事裁判所(ICC)は17日、ウクライナの占領地域から子どもたちをロシアに強制移送してロシア化の再教育を進めているとしてプーチンら2人に対して戦争犯罪の逮捕状を出した。

ICC加盟123カ国に足を踏み入れたら逮捕の恐れも

20日、英蘭主導の国際戦争犯罪会議がロンドンで開かれ、40カ国以上が参加した。ドミニク・ラーブ英副首相は「ウクライナで行われた不当でいわれのない残虐行為について戦争犯罪者の責任を問うという1つの大義に結ばれ、ここに参集した。英国は国際社会とともにICCに資金・人材・専門知識を提供し、正義が実現されることを保証する」と強調した。

ICC加盟123カ国に足を踏み入れれば逮捕される恐れがあるプーチンは人民日報に「ロシアと中国 未来を見据えたパートナーシップ」と題して寄稿。「とも有り、遠方より来たる、また楽しからずや」と孔子の言葉を引き「私たちにとって真の友人は血のつながった兄弟のようなものだ。私たちの国はとても似ている」と数少ない友人の1人、習氏を持ち上げた。

「露中関係は歴史上最高レベルに達し、強くなり続けている。冷戦時代の軍事・政治同盟よりも質が高く、リーダーとフォロワーが存在せず、制約も禁じられた話題もない。ロシアと中国を結ぶシベリアガスパイプライン『パワー・オブ・シベリア』は誇張なしに『世紀の取引』となっている」。中露貿易はプーチンと習氏の10年間で倍増した。

「ロシアと中国は地域と世界全体において第三国に向けられたものではなく、公平で開かれた包摂的な安全保障システムを構築するという利益のために一貫して取り組んでいる。われわれはウクライナで起きている出来事に対する中国のバランスの取れたアプローチと、その背景と真の原因に対する中国の理解に感謝している」とプーチンは習氏に感謝した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story