コラム

人権問題に目をつむり、W杯に賛辞...小国カタールに、なぜ欧米はここまで「甘い」?

2022年12月17日(土)13時24分
カタールW杯オープニングセレモニー

カタールW杯オープニングセレモニー(11月20日) Kai Pfaffenbach-Reuters

<数年前には周辺国に断交されるなど苦境にあったカタールだが、W杯とガスとマネーで欧米諸国が「カタール詣で」するほどに>

中東カタールの首都ドーハで開かれているサッカーのワールドカップ(W杯)はバロンドール(最優秀選手賞)史上最多7度受賞のリオネル・メッシ率いるアルゼンチンと若き英雄キリアン・ムバッペを擁し60年ぶりのW杯連覇を目指すフランスがいよいよ12月18日の決勝戦で雌雄を決する。メッシの時代が幕を閉じ、ムバッペの天下が到来するのか――。

筆者は日本代表の4試合とグループリーグのブラジル対セルビア選の計5試合を現地で観戦した。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、カタールでは2010~19年に1万5021人の外国人が死亡しているが、年齢、職業、死因の内訳は不明だ。移民労働者や性的マイノリティの人権問題は筆者が想像していたほどには騒がれなかった。

大会は宿泊施設の不備とスタジアムで本物のビールが飲めない以外は完璧に管理・運営された。グループリーグでアルゼンチンを破るジャイアントキリングを演じたサウジアラビアからの観戦客がドーハの街にあふれた。カタールのテレビではサウジ観光を促す広告が頻繁に流され、大会観戦のID(ハヤカード)を持っていればビザなしでもサウジに渡航できる。

221217kmr_qws01.jpg

初戦でアルゼンチンを破り、狂喜するサウジアラビアのサポーター(ドーハで筆者撮影)

昨年1月の雪解けまで3年半に及んだ「カタール危機」がウソのようだった。カタールとサウジは湾岸協力会議(GCC、6カ国)のメンバーだが、17年、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンのGCC加盟3カ国とエジプトがカタールと断交した。イランへの接近とムスリム同胞団への支援が理由だった。サウジはカタール唯一の陸上国境まで封鎖した。

バイデン米大統領「カタールはNATO非加盟の主要同盟国」

世界のスーパースターが死闘を繰り広げるW杯の舞台裏で、英国のリシ・スナク首相は12月2日、カタールのシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ首長と電話会談し、W杯を成功裏に開催していることに祝意を表した。大会の安全を確保するために英国とカタールの警察と軍隊が協力関係を築いていることにも言及した。

両首脳は強固な経済基盤の上に築かれた両国の貿易・投資関係を歓迎し、2国間および将来のGCC貿易協定を通じて投資と協力のための新たな機会を開拓していくことで合意した。ロシアのウクライナ侵攻に関連して防衛協力の深化についても話し合い、戦略的パートナーシップを発展させることの重要性を強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story