コラム

習近平はどうして「死に体」プーチンとの連携を強化するのか

2022年09月17日(土)07時16分

「ロシアのウクライナ侵攻前、米欧は中露の接近を恐れて、その間に楔を打ち込もうとした。侵攻後は中露を一つの陣営とみなして国際社会と対立させようとしている。中国は自主外交を堅持し、ブロック対立やいわゆる同盟に反対している。中露関係はウクライナ紛争や(冷戦マインドの)米国の封じ込めに対応したものではない」との分析も紹介している。

環球時報は論説で「中露の包括的・戦略的協力パートナーシップは『非同盟、非対立、いかなる第三者も標的にしない』という原則に基づいている。中露はいわゆる反米同盟を形成したわけではない。米国はインド太平洋版NATO(北大西洋条約機構)を作ろうとしている。覇権主義に反対しながら、米欧の政治的なウイルスに抵抗するために団結した」と非難した。

プーチン亡き後のロシア

ウクライナ戦争は、わずか2~3日のうちにキーウを陥落して親露派政権を樹立するというプーチン氏の所期計画が破綻、士気が低いロシア軍は北東部ハルキウや南部ヘルソンでウクライナ軍に戦術的な敗北を喫している。プーチン氏はまさに「死に体」である。

米コンサルティング会社ウィキストラットは8月、プーチン氏が死亡した場合、ロシアがどうなるかというシミュレーションを実施している。

ロシアが西側に回帰するという劇的な戦略転換がない限り、ロシアの中国依存度は時間とともに高まるという点で参加した23カ国の専門家56人の見方は一致した。ウクライナ戦争がいくら長引いても中国は漁夫の利を得る。制裁が西側へのロシア産原油・天然ガス輸出に重大な影響を与えるため、ロシアは貿易面で中国に頼らざるを得なくなるからだ。

ウィキストラット社の報告書は「プーチン氏が死んでもロシアの戦争継続の決断に影響を与えるとは考えられない。プーチン氏の後継者が2014年にウクライナから奪取した領土について妥協することもないだろう。短期的には政権の安定が唯一の目標になる。ロシアの外交政策は他の利益や目標より体制の安定確保を優先させるだろう」と予測している。

報告書は「中国はプーチン氏の死を南シナ海でより積極的な政策を追求する好機とみるかもしれない。習氏は権力掌握と政治的抑圧をさらに強める可能性がある」「プーチン氏の後継者は北コーカサス、ヴォルガ地方や近隣諸国の緊張に対処しなければならない。新政権はモスクワとの関係を再定義しようとする国々にタカ派的な戦略を取る可能性が高い」という。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story