コラム

イギリスで「異例の歓迎」受けた岸田首相、「中露帝国」にどう立ち向かうか

2022年05月06日(金)17時20分
岸田首相とジョンソン首相

英首相官邸前でジョンソン英首相とガッチリ握手する岸田首相(筆者撮影)

<「ポスト冷戦は終わった」とした日英首相。インド太平洋地域へと拡大する新たな地政学の時代を、日本はどう生き抜くべきなのか>

[ロンドン発]「ロシアの野蛮な侵略でポスト冷戦は終わった」――東南アジア、欧州5カ国を歴訪した岸田文雄首相は5日、英首相官邸でボリス・ジョンソン英首相と2時間超にわたって会談。かつてなく緊密な日英関係を深化させるとともに、ロシアのウクライナ侵攻に対し先進7カ国(G7)が結束して対露制裁やウクライナ支援を強化することで一致した。

官邸から出てきた岸田氏は「会談はどうだったか」との筆者の呼びかけに小さく手を挙げて応えた。日英双方の発表では「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分で、力による一方的な現状変更は認められない」との認識で一致し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け緊密に連携することを改めて確認。北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難した。

欧州連合(EU)離脱後、「グローバルブリテン」を掲げるジョンソン政権は昨年、北大西洋条約機構(NATO)と連携して英空母打撃群をインド太平洋に派遣し日英共同演習を行い、英艦艇の恒常的派遣や北朝鮮籍船舶の瀬取りに対処するなど日英安全保障・防衛協力を深めている。今回、自衛隊と英軍の共同運用・演習の「日英円滑化協定」でも大枠合意した。

未来型戦闘航空システム(FCAS)に関する日英協力の全体像も今年末までに明らかにする。イギリスの環太平洋経済連携協定(TPP11)加盟についても岸田氏は支援を表明した。福島原発事故後の福島産食品輸入規制についてジョンソン氏は6月末までに撤廃される見通しを示し、岸田氏が持参した福島県産ポップコーンを2人でほおばった。

アングロサクソンとの連携強化

日本は2004年、アメリカに関し「米軍行動円滑化法」を成立させ、今年1月にオーストラリアと「日豪円滑化協定」を結んだ。日米安全保障条約に基づく同盟国アメリカとは有事を想定し米軍が日本国内で自衛隊と同じように作戦行動できるよう整備している。同盟国ではないオーストラリアとは共同訓練や災害対応を行う際の法的地位や手続きを取り決めている。

「日英円滑化協定」が正式に締結されれば日本にとっては3カ国目で、アングロサクソン諸国との連携が一段と強化される。非同盟国イギリスとの「日英円滑化協定」は「日豪円滑化協定」を土台にしているとみられる。しかし焦点は英空母クイーン・エリザベスと、日本も取得を決めている短距離離陸・垂直着陸可能なF35Bステルス戦闘機の連携にある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story