コラム

<COP26>米中が電撃の「グラスゴー共同宣言」、成功に向けて大きな一歩

2021年11月11日(木)12時36分

米中共同宣言によりパリ協定の「最後のピース」になった6条のルールブックづくりが合意できれば、排出削減量の国際取引が大きく動き出す。解氏はまた「30年前に排出量をピークアウトさせ、60年までにカーボンニュートラルを実現する」と中国の方針を改めて強調した。

「グラスゴー共同宣言」をレイキャビクの冷戦終結に例えたケリー米特使

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ジョン・ケリー米気候変動対策大統領特使(同)

今年2月に解特使と初めて話したケリー氏はこれまでに約30回もテレビ電話会議を重ね、中国やロンドン、グラスゴーで会談した。ケリー特使は「ジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席が近くテレビ電話会議システムで首脳会談を開催する。われわれのチームはその準備で大忙しだ」と打ち明けた。

ケリー氏は「グラフを見ると、中国の排出量は少し増えるかもしれないが、頭打ちになっている」と指摘する。「この共同宣言は両国の現在と未来の協力のためのロードマップだ。中国とアメリカは相違点には事欠かない。しかし、協力はこの仕事を成し遂げるための唯一の方法だ。これは科学と数学、そして物理の話なのだ」という。

ケリー氏は「グラスゴー共同宣言」を冷戦時代にアメリカが旧ソ連と核兵器を削減するために合意したことと比較した。「歴史的に見ても重要なことだ。ロナルド・レーガン米大統領(故人)がアイスランドの首都レイキャビクに赴いた。レーガン大統領は旧ソ連を『悪の帝国』と呼んでいた」

「しかし、ミハイル・ゴルバチョフ・ソ連共産党中央委員会書記長(当時)と会談し、5万発の核弾頭を向けあっているのは賢明ではなく、別の方向に進むべきだと決定した。核兵器を削減するプロセスを開始した。その結果、世界はより安全になった。このように前進する方法を見つけるためには違いを超えなければならない。違いを無視しているわけではない」

背景にバイデン大統領と習主席の関係

アントニオ・グテーレス国連事務総長はツイッターで、この共同宣言を「中国とアメリカがこれからの10年、さらに野心的な温暖化対策を取るために協力するという今日の合意を歓迎する。気候危機への取り組みには国際的な協力と連帯が必要であり、これは正しい方向への重要な一歩だ」と歓迎した。

バラク・オバマ元米大統領時代の副大統領だったバイデン大統領は11年から1年半の間に当時、副主席だった習氏と8回も会っている。2人は中国の地方の学校でバスケットのシュートに興じ、通訳を介しただけの会食は合わせて実に25時間以上に及んだそうだ。しかし今回、習氏はCOP26を欠席した。

米中間では貿易、産業だけでなく、資本分野でも「デカップリング」が進む。コロナに代表される感染症対策、温暖化対策でも亀裂が広がっていただけに、「グラスゴー共同宣言」は本当にサプライズだった。これで関係が完全に改善されたわけではなく、ケース・バイ・ケースで緊張と緩和が繰り返されるだろう。

ただ、COP26が成功に向けて大きく動いたことだけは間違いない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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