コラム

メルケル首相のお尻を蹴っ飛ばす「緑の党」バイエルン州議会選で大躍進

2018年10月15日(月)13時00分

「選択肢」の台頭とCSUの右傾化に嫌気が差した有権者の票が緑の党を押し上げた。難民規制を強化するメルケル首相と3度目の「大連立」を組んだSPDにも改めて有権者の厳しい審判が下された。ドイツの二大政党制は完全に崩壊し、多党化が定着した。

難民問題の解決策を見つけるのは容易ではないとは言え、有権者が変化を求める背景には4期13年に及んだメルケル政権や既存政治への飽き、「メルケル疲れ」がある。

1970 年代に反原発、反核、草の根民主主義、フェミニズムが合流して誕生した緑の党は地方・連邦議会への進出、SPDとの連立政権を経て現実路線に舵を切った。地球温暖化への懐疑を唱えるドナルド・トランプ米大統領の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱、極右の台頭に対する市民派と左派の危機感は高まっている。

オルタナ右翼とリベラルの戦い

ニュルンベルクのビアホールで出会ったミュンヘン工科大学のウォルフガング・ハウプト教授は「欧州は一つという理念、地球温暖化、環境、社会的公正、リベラルの価値を体現しているのは緑の党だ」と言う。

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EU旗と緑の党のパンフレットを掲げるハウプト教授(筆者撮影)

2年前に緑の党に入党したロルフ・カーステン氏(51)もミュンヘンのビアホールで開かれた勝利集会で「政治の流れを変える責任は皆にある」と息を弾ませた。緑の党の選挙運動は多くの若者によって支えられた。

緑の党の大躍進と選挙前日の13日ベルリンで行われたレイシズム(差別主義)反対25万人大行進は連動した政治の流れだ。2015年にドイツに逃れてきたシリア難民のサーエル・オーファリ氏(29)は大行進に家族で参加した。

「宗教や肌の色、性やイデオロギーの違いがあっても大行進の中でパワーを感じた。皆が愛し合い、差別主義に反対する。いつか祖国シリアにも手をつなぎ、戦争を終わらせ、誰もが愛し合える日が来ることを願っている」とオーファリ氏は言う。

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大行進で掲げられた横断幕には「ゼーホーファーを便所に流してしまえ」と書かれていた(オーファリ氏提供)

緑の党の大躍進は暗雲が立ち込める欧州にとって一筋の光明と言えるかもしれない。しかし、既存政党が信頼を失う中で、オルト・ライト(オルタナ右翼)とリベラルの闘いは一段と激しさを増している。


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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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