コラム

最低賃金の日韓逆転は遠くない?──2022年は両国とも引き上げを決定

2021年07月23日(金)19時09分
文在寅

韓国の文在寅大統領が行ってきた大幅な最低賃金引き上げは、吉と出るか凶と出るか Jeon Heon-Kyun/REUTERS

<片や韓国は文在寅大統領が性急過ぎる引き上げで雇用悪化を招いたと謝罪してペースを落としたが、日本はもっと引き上げが必要だ>

7月13日と14日、日韓両国で競争でもするかのように来年の最低賃金額が決まった。先に決まったのは韓国だ。2021年7月12日から13日まで開かれた最低賃金委員会の第9回会議では、来年の最低賃金を今年の8720ウォンから5.0%引き上げ9160ウォン(全国一律)に決定した。この結果、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期中に「最低賃金1万ウォン」を達成することは不可能になった。

文大統領は、2017年の大統領選挙時に「3年(2017~2020年)以内に最低賃金を1万ウォンとする」という公約を掲げ、それを実現するために、2018年には16.4%、2019年には10.9%と2年連続で最低賃金を2桁引き上げた。しかしながら、2年間で29%も最低賃金が上昇したことで、飲食店や小売店など自営業者の人件費負担が急増し、廃業や解雇が続出し、雇用悪化につながった。

無理な最低賃金の引き上げで雇用状況が悪化すると、文政権は政策の失敗を認め、最低賃金の引き上げ幅を大きく縮小した。その結果、2020年の引き上げ率は2.8%に止まった。さらに、2020年7月に決まった2021年の最低賃金の引き上げ率は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり1.5%と、韓国で最低賃金制度が施行された1988年以降、最低を記録した。

一方、日本でも7月14日に、中央最低賃金審議会の小委員会が開かれ、2021年度の最低賃金を全国平均で28円(3.1%)引き上げ、時給930円とすることが決まった。引き上げ額28円は2002年度に時給で示す現在の方式となってから過去最大である。

韓国の最低賃金の引き上げ率は日本より高い水準を維持してきた。例えば、1990年から2022年までの最低賃金の対前年比引き上げ率の平均は日本が2.0%であるのに対し、韓国は8.7%で、日本より4倍以上も高い。韓国の最低賃金の対前年比引き上げ率が日本を下回ったのは、文政権が最低賃金の大幅引き上げ政策の失敗を認めて決まった2020年のみである。

■日韓における最低賃金の対前年引き上げ額と対前年比引き上げ率
chart1.jpeg
出所)日本:独立行政法人労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計 > Ⅳ賃金 > 図3最低賃金」、厚生労働省「地域別最低賃金改定状況」各年、韓国:最低賃金委員会「年度別最低賃金決定現況」より筆者作成

では、日韓の最低賃金はどれくらい縮まったのだろうか。ここでは日韓の為替レートを用いて韓国の最低賃金を円に直すことにより、日韓の最低賃金の水準を比較した。為替レートは1989年から2020年までには年平均を、そして2021年と2022年は日本で2022年の最低賃金が決まった7月14日のものを反映した。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、富士松工場第2ラインを17日から稼働再開

ワールド

スーダン内戦1年、欧米諸国が飢餓対策で20億ユーロ

ワールド

香港の国家安全条例、英では効力なく市民は「安全」=

ワールド

ザッカーバーグ氏個人の責任は認めず、子どものSNS
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story