コラム

韓国の新型コロナウイルスの勝者は自営の小さなフライドチキン専門店?

2020年12月04日(金)18時21分

韓国に多いフライドチキンの店は、退職者が退職金で開いたものが多い 筆写撮影

<韓国退職者の生きる縁として日本のコンビニよりたくさんあるフライドチキン専門店に追い風が吹いているが、実態は3年しか続かない厳しい現実>

コロナ禍で多くの飲食店が業績悪化に苦しむ中で、一時は「自営業者の墓」とも言われていたフライドチキン専門店の売上が好調である。新型コロナウイルスの影響でデリバリーや持ち帰りによる中食需要が増加したからである。

韓国のフライドチキン専門店業界1位の「KyoChon」チキンの上半期の売上は2,156億ウォンで、昨年の上半期より15.8%増加した。業界2位の「bhc」の売上の増加幅は約30%だ。売上の増加をきっかけに「KyoChon」チキンを展開するKyoChon F&Bは11月12日にKOSPI(大手優良企業を対象とした韓国の有価証券市場)に上場し、上場日に上限価格を達成した。飲食業(外食)のフランチャイズとしては初めての上場である。KyoChon F&Bは、現在、韓国を含めた世界7カ国に1234店の店舗数を2025年までに1,500店まで増やす計画である。

韓国は「チキン共和国」と言われるほど、フライドチキン専門店が多い。韓国統計庁の発表によると、2018年時点の韓国のフライドチキン専門店の数は3万7000店に達している。一方、民間シンクタンクのKB経営研究所は、フライドチキン専門店に「ビール&フライドチキン専門店」(以下、フライドチキン専門店)で認可を受けた店を加えて、韓国のフライドチキン専門店は2019年2月現在約8万7000店に達すると発表した。2019年3月末時点の日本のコンビニ店舗数5万8340店を大きく上回る数値である。

韓国にフライドチキン専門店が多い理由としては、2016年に「高齢者雇用促進法」が施行されるまで定年が法律で義務化されていなかったことがある。韓国では2013年4月30日に「高齢者雇用促進法」が国会で成立したことにより、2016年からは従業員数300人以上の事業所や公的機関に、さらに2017年からは従業員数300人未満のすべての事業所や国、そして地方自治体に60歳定年が義務化された。

退職後、比較的手軽に始められる

60歳定年制がない時代には、50代前半や50代半ばで会社を辞めた中高年者は退職金等を使ってフライドチキン専門店をオープンした。デリバリーや持ち帰り中心の店なら狭くても問題なく、他の飲食店に比べて賃貸料などの費用や開店費用(平均5,725万ウォン、日本円で約549万円(2020年12月4日為替レート適用))の負担が小さい。また簡単な研修を受けて一週間ぐらい練習をすれば開店できること等がフライドチキン専門店が人気の理由だった。

フライドチキン専門店の年間開店数は2014年に約9,700件でピークに達して以降は減少傾向に転じたものの、2018年時点でも約6,200店が新しく開店している。2015年以降の減少は2016年に「高齢者雇用促進法」が施行され、60歳定年が義務化されたのが一つの原因と考えられる。

■韓国におけるフライドチキン専門店の年開店・閉店数
kimchart20201204.png
出所)行政安全部「地方行政認・許可データ」ホープページ(2020年12月4日接続)、キムテファン(2019)「KB自営業分析報告書:チキン店の現状及び市場分析」

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story