コラム

政府による「賃上げ」要請...本来なら悪手であるこの政策が、今回ばかりは正しい理由

2023年01月18日(水)11時33分

先ほど政府は無策のそしりを免れないと書いたが、実はそうではない。仮に経済界が春闘で大幅な賃上げを決めるのなら、むしろ政府の出番はそこからである。企業が先に賃金を上げた場合、何もしなければ利益は確実に減少する。過去20年の日本企業がそうであったように、利益の減少に対して、非正規労働者の拡大による実質的な賃下げや、下請け企業への過剰な値引き要求など、安易なコスト削減に走らないよう政府は指導を強化していく必要があるだろう。

日本は形の上では、しっかりとした労働法制や下請け保護の法律が存在しており、既に環境は整っている。これらの法体系は有名無実化していた面があったが、政府はごく普通に法を執行するだけで、企業の経営に対して十分な影響力を行使できるはずだ。

企業による安易なコスト削減の道を閉ざしてしまえば、企業はリスクを取って先行投資を行うという、正攻法での業績拡大を目指すことになる。企業は、先に賃金を上げるという背水の陣を敷けるのか、政府は持っている権限を企業に忖度せず行使できるのか、いずれもトップの覚悟が問われている。

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プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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