コラム

生活は苦しいのになぜ? 日本企業が「過去最高の経常利益」を記録...その残念な真相

2022年12月14日(水)08時07分
日本の相場イメージ画像

SIMON2579/ISTOCK

<2022年7~9月期の法人企業統計で、全産業の経常利益が過去最高額を記録。実感はわきにくいが、本当に儲かっているのか?>

日本企業の経常利益が同じ四半期としては過去最高を記録するなど、企業業績が拡大と報じられている。一部の論者は円安の効果であり、日本経済が順調に回復している証左だと主張しているが、多くの国民にとって円安で企業が儲かっているという実感はない。生活に根差した直感は大抵の場合正しく、肌感覚と異なる情報に接した場合には、数字のマジックを疑ったほうがよい。

財務省は2022年12月1日、7~9月期の法人企業統計を発表した。全産業(金融.保険業を除く)の経常利益は前年同期比18.3%増の19兆8098億円だった。これは7~9月期としては、比較可能な1954年以降、過去最高額である。

円安の進展によって一部の企業が空前の利益を上げているのは間違いない。だが、多くはインフレや円安の影響によってコスト増加に悩まされており、簡単には価格に転嫁できないことから、利益を犠牲にせざるを得ない。では、こうした状況にもかかわらず、なぜ企業全体の業績は過去最高を更新しているのだろうか。その疑問を解くカギはインフレにある。

日本経済は長くデフレが続いてきたが、今年に入って円安が進み、輸入物価が上昇したことで、日本でもいよいよ本格的なインフレが始まった。コスト上昇分をどれだけ価格転嫁できるのかは業種や業態によって異なるものの、経済全体の物価が上昇すれば、総じて企業の売上高や利益の「絶対額」は増加する。だが、この状態ではコストも増えているので、決して儲かっているわけではない。

重要なのは利益率の変化

例えば年間1億円を売り上げ、2000万円の営業利益を得ている企業があったとすると、コストは8000万円と計算される。インフレによって全体の物価が2割上昇した場合、当該企業の売上高は1億2000万円になる。

一方、コストも2割増えているはずなので、物価上昇後のコストは9600万円となり、コストを差し引いた利益は2400万円になる。売上高と利益は増えているので増収増益と表現されかもしれないが、利益率はどちらも20%であり、実態としては何も変わっていない。

つまり物価上昇が起こっているときに、企業が過去最高益を更新するのは当たり前であり、利益率の変化を見なければ、本当に企業が儲かっているのかは分からないのだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story