コラム

超円安の時代:目安が1ドル150円となる理由、住宅は持ち家がいい理由

2022年10月07日(金)10時35分
円安

ILLUSTRATION BY KRAPHIX/ISTOCK; INSET PHOTOS: KEVIN COOMBS-REUTERS, KIYOSHI OTA-BLOOMBERG/GETTY IMAGES (2), KOKOUU/ISTOCK, KIM KYUNG HOON-REUTERS (2)

<急速に円安が進んだ理由は、日米の金融政策の違い。「良い円安」か「悪い円安」かという議論もあるが、国内消費者にとって基本的にはマイナス要因ばかりだ。インフレとの同時進行にどう対処したらいいのか>

円安の流れが止まらない。年初に1ドル=115円台だったドル円相場は、その後、上昇が続き、7月には140円目前まで迫った。ドル買い取引の手じまいなどから、一旦130円台前半まで下落したが、その後、再び上昇を開始し、9月にはとうとう140円を超えた。

急ピッチで円安が進んだ理由について、一般的には日米の金利差であると説明されることが多い。

アメリカは量的緩和策からの撤退を進めており、金利の引き上げフェーズに入っている。一方、日銀は依然として大規模な金融緩和を行っており、ゼロ金利政策が続く。アメリカは金利が高く、日本はほぼゼロ金利であることから、分かりやすく「アメリカで運用したほうが有利なのでドルが買われる」といった説明が行われる。

筆者も時折そのような説明をすることもあるのだが、厳密に言うと金利差を活用した投資家の動きが直接、円安を招いているわけではない。
20221011issue_cover200.jpg

確かにアメリカのほうが金利が高い場合、日本円で資金を借りてドルで運用する、いわゆるキャリートレードと呼ばれる取引が活発化する。だが、現実にはキャリートレードを行う投資ファンドはそれほど多くないと考えられ、この取引が為替にもたらす直接的な寄与度はそれほど高くない。

為替取引を行う投資家にとって、金利差を活用した取引そのものよりも、理論上、そうした取引が可能であるという状況のほうが圧倒的に重要であり、これがドル買いを誘発していると考えてよいだろう。

加えて言うと、アメリカの金利が高いということは、市場からドルが回収されていると解釈できる。一方、日銀はゼロ金利を継続しており、日本円は大量供給されている。つまりドルの量は減り、円の量は増えているので、当然のことながらドルの価値は上がり、円の価値は毀損しやすくなる。

今回の円安について、あえてひとことで説明すれば、日本とアメリカの金融政策の違いがもたらしたものであり、日銀が金融政策を大きく転換しない限り、状況が変化する可能性は低い。

一部の専門家は、購買力平価による理論的な為替レートを根拠に、現在の水準は大幅に円安であり、円高に戻る可能性が高いと指摘している。

確かにドル円相場については、戦後、一貫して購買力平価に沿って動いてきたという歴史があり、購買力平価がそれなりの説得力を持っているのは間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、5月は102.0 インフレ懸念

ビジネス

アクティビスト投資家エリオット、米TIへの25億ド

ワールド

EU、ウクライナ国内での部隊訓練を議論 共通の見解

ワールド

イスラエル戦車、ラファ中心部に初到達 避難区域砲撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏最新インタビュー

  • 3

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    TikTokやXでも拡散、テレビ局アカウントも...軍事演…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story