コラム

NTTの「殴り込み」で、日本の電力業界に起きること

2020年07月22日(水)17時06分

SILKWAYRAIN/ISTOCK

<NTTによる再生可能エネルギー事業への参入は、電力業界と消費者にどう影響するのか>

NTTが再生可能エネルギー事業に本格参入する。同社はかつて官営の通信事業者だったこともあり、各地に旧電話局をはじめとする大型施設を数多く保有している。アナログ時代に電話局に収容されていたクロスバー交換機は巨大な装置だが、通信網がIP(インターネットで使われる通信規格)化されたことで機器の小型化が進み、施設には多くの空きスペースが存在する。このスペースをフル活用し、施設内に大量の蓄電池を設置。地域における電力ステーションとして官庁や事業者などに電力を供給する方針だ。

発電については三菱商事と提携し、風力発電や太陽光発電の事業開発を行い、再生可能エネルギーを使った大型発電施設から電力供給を受けることになる。

日本では巨大な発電所で集中的に電力を生み出す集中電力システムが主流となっており、各地に太陽光パネルや蓄電池を設置してネットワークで結ぶという分散型電力システムについては懐疑論が多かった。今でも電力は集中型でなければ安定供給できないと思っている人も多いかもしれないが、それは昭和時代までの古い常識である。

再生可能エネルギーや蓄電、電力管理に関するイノベーションは想像を絶するスピードで進化しており、分散型電力システムの構築は既に現実的な局面に入っている。NTTはお役所仕事の象徴とされ、良くも悪くも新しい技術の導入には常に慎重なスタンスで知られてきた企業だが、そのNTTが分散型電力システムに本格参入するという現実こそが、全てを物語っている。

災害時の停電リスクを軽減

近年、地球温暖化の影響で日本の気候が激変し、従来では考えられなかったレベルの災害が多発している。災害時に携帯電話が不通となる原因の7割は停電で、電力系統が複数存在すればリスクを大幅に軽減できるだろう。同社では保有する約1万台の社用車を電気自動車(EV)化する計画も進めており、大規模停電時には移動式非常用電源としての活用も期待できる。

ほぼ同じタイミングで経済産業省は、非効率な石炭火力発電所の削減を進める方針を打ち出しており、NTTの再生可能エネルギー電力網はその有力な代替手段となる。

【関連記事】
・ドイツで潰えたグリーン電力の夢

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、米テキサス工場に5億ドル超の投資を検討

ワールド

米国務長官「適切な措置講じる」、イスラエル首相らの

ビジネス

日産、米でEV生産計画を一時停止 ラインナップは拡

ワールド

EU、ロシア資産活用計画を採択 利子をウクライナ支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル写真」が拡散、高校生ばなれした「美しさ」だと話題に

  • 4

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 5

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 6

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story