コラム

「民泊」拡大が暗示するのは、銀行のない未来

2015年12月08日(火)15時42分

日本では「フィンテック」は金融サービスを便利にするといった程度の認識だが、実は長い歴史を持つ銀行の存在意義そのものが問われている Heiko Küverling-iStockphoto.com


〔ここに注目〕人工知能の発展

 空き部屋を宿泊施設として外国人観光客などに貸し出す、いわゆる「民泊」の是非をめぐって論争が起きている。民泊が急速に普及したのは、Airbnbという海外のネット仲介サービスが日本に進出したことがきっかけなのだが、こうしたネット・サービスは、既存のサービス事業者の存在を「中抜き」してしまうという点で破壊的だ。

 新世代のネット・サービスは今後、さらに普及が加速すると考えられるが、究極的な到達点は金融サービスの分野と言われている。ネットのフル活用によって、銀行すら要らなくなってしまう可能性が指摘されているのだ。

途上国のスマホ金融サービスは何がスゴイのか

 昨年まで民泊は、ごく一部の利用者だけが知る、限られたサービスであった。しかし、世界最大の民泊仲介サイトであるAirbnbが日本に進出してからは状況が一変、すでに国内では2万件以上の物件が登録される状況となっている。

 一般の民家が宿泊料金を取って部屋を提供する行為は厳密には旅館業法などに違反するが、政府は今年10月、特区に限定してこの規制を緩和する方針を打ち出している。東京オリンピックを控え、宿泊施設の絶対数が足りないことや、政府の規制が現実に追い付いていないことなどから、特区限定とはいえ現状追認という形になった。

 民泊については、その是非をめぐって激しい議論となっているが、こうした動きは民泊の分野だけにとどまるものではない。米国など海外では、多くの業務がこうした仲介サイトによって個人に解放されており、あらゆる業界で地殻変動が始まっている。影響は様々な分野に及ぶことになるが、こうした仲介ビジネスの本丸は金融サービスといわれている。つまり銀行を介さない金融サービスが普及しはじめており、銀行の存在意義そのものが問われる状況となっているのだ。

 このところ、アフリカなど途上国におけるスマートフォンを使った少額融資サービスが全世界的な注目を集めている。米国のシリコンバレー型ネット企業がこうしたサービスを手かげており、特にケニアでは、branch.coやInVentureなど多くのサービスが立ち上がっている。

 途上国において少額の融資を行うサービスは、マイクロファイナンスと呼ばれており、以前から存在していた。バングラデシュの経済学者であるムハマド・ユヌス氏が立ち上げたグラミン銀行や、社会起業家であるマット・フラネリー氏が設立したKivaなどは非常に有名である。

 こうした既存のマイクロファイナンスは慈善活動としてのニュアンスが強いが、最近、登場してきた新サービスはあくまでビジネスとして事業を展開している(ちなみにbranch.coの設立者は、Kiva設立者のフラネリー氏である)。だが注目されている理由はそれだけではない。融資の審査をスマホ上で自動化するという画期的な手法を導入しているからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 3

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「極超音速ミサイル搭載艇」を撃沈...当局が動画を公開

  • 4

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story