コラム

デスマッチを続けるロシアと西側諸国に日本が示すべき新機軸

2022年07月13日(水)10時56分

来年のG7議長国は日本が務める(写真は今年の同首脳会談) JOHN MACDOUGALLーPOOLーREUTERS

<来年の広島サミットで岸田政権は世界に「背骨の通った哲学」を提案せよ>

イギリスのジョンソン首相が辞意を表明した。

アメリカではおそらく、秋の中間選挙でインフレがたたり、民主党が上下両院での多数議席を失うだろう。コロナを鎮め、ウクライナ戦争でロシア制裁に乗り出した西側先進諸国だが、フランスやドイツも含めて今や内部から総崩れの様相だ。

コロナ対策では効果的なワクチンを使う西側先進諸国が優位にあるが、ウクライナ戦争絡みのロシア制裁が原油・ガス価格の急騰を招き、ロシアと西側のどちらが先に倒れるかのデスマッチになっている。

先進諸国のインフレは社会の格差をますます広げ、有権者はこれまでの労組や業界団体のようなまとめ役のない、ばらばらの存在となって政治家やマスコミにあおられるまま、右に左に揺れ動く。その中で、いくつもの似非(えせ)言説がのさばってきた。

まず、「専制・権威主義はその効率で民主主義に勝る」というものがある。筆者は専制・権威主義のロシアや中央アジアで合計15年ほど暮らしたから自信を持って言う。「彼らは取り締まりなら効率よくやるが、優れたワクチンを生むことはできない」と。

次に「自由・民主主義はまやかしのスローガン。アメリカの世界支配の道具にすぎない」という言説がある。これは、アメリカのネオコンたちが自由・民主主義の旗印を掲げて途上国などの政府を倒し、その後に起きた混乱の責任を取らないでいるのを見れば、かなり的を射ている。

しかし、日本人にしてみれば、自由や民主主義は自分自身のために必要なものだ。専制主義政党が政権を取れば、政府への批判が許されないだけでなく、社会の主要なポストはその党員が独占してしまうだろう。

「グローバリゼーションは終わり」、あるいは「ドル支配はデジタル人民元に取って代わられる」という言説も同じこと。外国との交易は古代から行われている。

今回はロシア、そしてもしかすると中国も冷戦時代と同じように鉄のカーテンの向こうに閉じ籠もるかどうか、という問題でしかない。資本取引で自由に使えない人民元は、いくらデジタル化したところで、国際基軸通貨として使われることはないだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story