コラム

トランプ政権がパレスチナ難民支援を停止した時、40カ国が立ち上がった

2018年12月13日(木)11時03分

Yuri Gripas-REUTERS

<2018年、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は危機的状況に陥ったが、それに対し国際社会での支援が広がった。クレヘンビュール事務局長が激動の一年を振り返る>

今年、パレスチナ問題は大荒れとなった。発端は昨年12月にトランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにあった米国大使館をエルサレムに移すと発表したことである。

今年の1月には国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への援助を停止することを表明。5月になると、米大使館のエルサレム移転が実施され、ガザで抗議デモが始まった。UNRWAは財政危機と政治的危機の両方に直面した。

このたび来日したUNRWAのピエール・クレヘンビュール事務局長にインタビューし、激動の2018年を振り返り、今後の課題を探った。

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クレヘンビュールUNRWA事務局長(12月6日、撮影:川上泰徳)

事務局長は「今年は例がないほど難しい年だった」と語った。

「米国が大使館をエルサレムに移すという発表は、パレスチナ難民の間に強い不安を生み出した。状況はすでに厳しく、封鎖されたガザでは仕事もなく、衝突も続き、56万人のパレスチナ難民がいるシリアでは内戦が続き、多くの難民キャンプが破壊された。難民にとっては先が見えず、希望がない状況だった。そこへ、米国がUNRWAへの支援3億ドル(340億円)の停止を発表したことで、パレスチナ人はさらに強い圧力を感じた」

米国のUNRWA支援停止は、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定したことに対してパレスチナ自治政府が非難したことで始まった。

大統領は1月初めのツイッターで「(和平)協議の一番難しい部分のエルサレムを議題から外した。だが、パレスチナ人には和平を協議する意志がない。今後、膨大な支援額を支払う理由などあるだろうか」と、パレスチナへの援助停止を示唆した。その後、米国連大使がUNRWAへの資金拠出を停止する方針を発表したのである。

UNRWAに登録されている難民は530万人。ガザ、ヨルダン川西岸、東エルサレムと、レバノン、シリア、ヨルダンなどの周辺国に計51カ所の難民キャンプがある。すべての難民が難民キャンプに住んでいるわけではないが、UNRWAの運営する学校は711校あり、53万人の子供が通う。医療センターは140カ所だ。

UNRWAの年間予算約11億ドル(1200億円)のうち、米国の支援は3億6000万ドル(400億円)で全体の3分の1を占めていた。1月の時点で1億4600万ドル(160億円)の財源不足があり、米国の援助停止によって財源不足は4億4600万ドル(500億円)にふくらんだ。

「人道支援は政治に左右されるべきではない」

こうした危機的状況に対し、クレヘンビュール事務局長は1月から国際社会に向けて支援を訴えるキャンペーンを始めた。キャンペーンの皮切りとして1月に東京を訪れ、河野外相に協力を要請。外相は全力で支援することを約束したという。

それから10カ月後、事務局長は11月20日、ヨルダンの首都アンマンで開かれた会合で、財源不足は4億4600万ドルから2100万ドル(23億5000万円)にまで減ったことを発表した。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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