コラム

韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか

2020年03月11日(水)17時20分

文在寅は、検査を求める国民を正しい方向に説得できるか Kim Kyung-Hoon/REUTERS

<韓国で新型コロナウイルスの感染者が急増していることを思えば、入国制限を決めた日本政府の判断も合理的と思えるのに、それにもかかわらず韓国政府が激怒し、すぐさま対抗措置を取った深層の理由>

今更言うまでもないことであるが、新型コロナウイルスが猛威を振るっている。周知の様に昨年12月、中国は武漢にはじまったこのウイルスの流行は、中国全土から東アジア各地に及び、現在では欧州諸国をはじめ世界各地にまで広がる勢いを見せている。各国がこの流行に対して見せる対応は様々であり、その違いが更に論議を呼ぶ事になっている。

その中でもとりわけ対照的な動きを見せているのが、共に流行の発生源である中国に隣接する韓国と日本である。そこでここでは、新型コロナウイルスの流行に対する韓国のこれまでの対応について、日本と比較しながら、主としてその政治現象に関わる部分に着目してまとめてみる事としたい。

「終息宣言」直前の状況から暗転

韓国において新型コロナウイルスの感染者がはじめて確認されたのは、今年1月20日、仁川国際空港から入国した武漢に住む中国人女性の例だった。他方、日本ではじめての感染者が発見されたのは1月16日、武漢に滞在し帰国した神奈川県男性の例であったから、そもそもの発端の時期に大きな違いがあった訳ではない。しかし、その後の日韓両国の状況はジェットコースターのように上下した。2月上旬、日本ではたまたま寄港した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で集団感染が発生し、日本政府の対応に国際社会の大きな注目が向けられる事になった。逆に同じ時期、韓国では2月11日に28人目の感染者が発見されてから5日間、新たな感染者が発見されない状況が続き、文在寅政権は同ウイルスの抑え込みに成功した旨の「終息宣言」を出し、混乱が続いていた日本を、中国、香港、マカオに続き新型コロナウイルスの感染地域に指定する事を検討するまでに至っている。韓国では新型コロナウイルスへの日本政府の対応に疑念が広がり、逆に自らの措置に自信感を強めていた時期である。

しかしながら、韓国の状況もまたこの直後に暗転する。2月18日に新興宗教集団「新天地イエス教会」で集団感染が発覚し、韓国の感染者は急速に増加、約一週間後の2月26日には瞬く間に1000人を超える事となったからである。程度の差こそあれ、2月後半になって事態が深刻化したのは日本も同じであった。2月21日に「ダイヤモンド・プリンセス」のそれを除く感染者が100名を超えると、25日には政府が新型コロナウイルスへの基本対策方針を発表、27日には安倍首相自らが、小中高校の休校を要請するに至っている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=連日最高値、エヌビディア急伸 ハイテ

ビジネス

エヌビディア時価総額5兆ドル目前、政府向けスパコン

ワールド

ブラジル・リオで麻薬組織掃討作戦、過去最悪の64人

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、日米当局者の発言で財政懸念
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 9
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story