コラム

知らないと痛い目を見る、ヨーロッパ鉄道旅行は落とし穴だらけ

2023年11月18日(土)15時35分

ドイツ鉄道は乗客とのコミュニケーションもとてもお粗末だ。欠点はいろいろあれど、この点ではイギリスの鉄道運行のほうがまだ優れている。

その1、イギリスの列車は遅延や運行停止について、正確で正直に伝えている。だから利用客は、「OK、30分遅れるなら会社に電話しておこう」、あるいは「1時間遅延なら駅からタクシーを予約したほうがよさそうだ」「2時間の遅れだって!! 食事して出直そう!」などと決定する機会を得られる。

その2、イギリスの列車は遅延の理由をきちんと説明する。

その3、イギリスの列車は謝罪する。ドイツ鉄道はそんなことしようとしない。電光掲示板の遅延予定が定期的に変化するだけだ。15分遅延から、30分遅延に変わり、50分遅延になり......そしてその時間になっても列車は到着せず......。もしかするとドイツの鉄道のDNAには遅延が刻まれていなかったが、イギリスの鉄道は数多くの遅延を経験してきたために、こうした対処法も得意になったのかもしれない。ドイツ鉄道は学ぶ必要があるのだ。

スロベニアのおんぼろ列車や、ポーランドの普通列車でWi‐Fiがないことなど、ヨーロッパの「比較的貧しい」国々を非難するつもりはない。僕は、比較的先進的な国々の鉄道のおかしな点に興味がある。

だから僕が第2のポイントに挙げるのは、フランス、イタリア、スペインの列車の大々的な不便さだ――都市から都市を結ぶ路線のほとんどで、予約が必要なのだ。そして、その予約が簡単にはいかない。

フランスでは予約不要の路線もあるが、イタリアやスペインではほぼ100%が予約必須。僕は旅行中、どうしても特定の日にある場所から別の場所へと移動しなければならない(そしてその経路は例えば1日に3本の列車しかなかったりする)という状況のせいで、スケジュールが危うくなったことが何度かあった。1本は馬鹿みたいに朝早い時間に出発し、別の1本はとても遅い時間に到着予定で、その中間のほどよい1本は既に予約で埋まっていたりする。チケット売り場で、「その電車は通常、何週間も先までしっかり予約が埋まってますよ......」と言われたことも何度かあった。

目的地になんとかたどり着けるんだったら、喜んで3時間だろうと列車で立ち続けようと思ったこともあった(せっかくパリ開催のラグビーワールドカップの試合チケットをギリギリ直前でゲットできたのに、むしろ困ったのはトゥールーズからパリまでの列車のチケットのほうがもっと手に入りにくかったことで、危うく試合を見られないところだった)。

だが列車は、1席につき1人の予約。飛行機のように何席か「ノーショー(予約したが現れず)」が出ることを見越して「オーバーブッキング」することはない。だから予約で埋まった電車でも、常にいくつか空席がある。

長距離客が圧倒的に不利

僕から見てさらに奇妙に感じられるのは、このシステムは長距離旅行者に対して「差別的」だということだ。たとえば、僕はサン・セバスティアンからマドリッドまでのチケットを辛うじて手に入れることができた(予約サイトでキャンセルを神経質にチェックし続けたから)。そうして電車に乗り込むと、乗車率はせいぜい30%だった。席は途中からいっぱいになった。

言うなれば、乗車時間30分ほどの最後の1駅間を先に予約した人がいるがために、その席は「埋まって」しまい、乗車時間5時間の長距離客は予約できない、という事態になる。

長距離の区間のほとんどを席に座って、最後の1駅間だけは先に予約した人に席を譲りビュッフェ車に移動する――なんて、許されざることなのだ。

一度電車を逃すと次の電車を確保できる可能性はほぼゼロになるから、これは余計にストレスフルだ。目的地にその日のうちに到着できない可能性すらある。忠告に従って「かなり前から」翌日の電車を予約してあったりした場合は、事態はさらにめちゃくちゃになる。

もちろん、ヨーロッパの鉄道には長所だってある。イタリアの客車は快適で、(ファーストクラスでは)コーヒーとスナックを提供してくれる。ドイツの列車にはサイレントゾーンが設けられていて、乗客が携帯電話で話すこともない。スペインの列車は僕が見た限りかなりスケジュールを守って運行している(あまり「野心的でない」運行スケジュールが組まれているからというのもあるだろうが)。それに、乗車してからしつこく切符の確認を求められることもない。

でも僕の総合的な結論としては、イギリスの鉄道ネットワークはイギリス人が考えているほどひどくはない、ということ。というのも彼らは、大陸ヨーロッパの鉄道が実際よりはるかに優れていると誤解しているだけなのだが。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story