コラム

コロナ規制解除でブレグジット的「分断」が再び

2021年07月27日(火)17時15分

それでも、規制の延長を求める声もたくさんあり、大きな分断が今も存在している。規制延長派の掲げる唯一の論理は「ゼロコロナ」を目指すというものだが、これはもちろん実現不可能だ。永続的な半ロックダウンとワクチン未接種の罰則化で、ゼロコロナに近づくことはできるかもしれない。より厳格な規制強化も必要になるだろうし、より長期間続けなければならないだろう。

そのコストは非常に高くつく。単に個人の自由を損なうという意味だけではない。イギリスの娯楽産業(名高いウェストエンドの劇場など)に打撃を与え、外食産業(愛されているパブも)や旅行産業(コロナ禍が去ったら僕も大いに利用したい)も破壊するだろう。

奇妙なことに、この分断でもブレグジット(イギリスのEU離脱)の議論の再現が起こっている。大まかに言うと、大勢の中流「残留派」がコロナでも厳格な規制継続を支持している様子。もっと「一般的な」人々(「離脱派」タイプ)は、コロナ規制はもうたくさんだと思っているようだ。

他者への共感の欠如

EU離脱議論とちょうど同じように、一方の側は、自分たちのほうが「現実」をちゃんと理解していてモラルも高いと信じ込んでいる(「人々の命を守るのは最優先事項のはずだ」)。もう一方の側は、より地に足のついた態度で「人生は生きるためにあり」と考え、ある程度のリスクも受け入れている(「いずれは誰だって死ぬものだ」)。

僕の考えでは、果てしない規制を支持する人々の多くは、他者への共感を欠いている。庭付きの快適な家があり、電車通勤もせずリモートワークのできる人ならば、規制継続を支持するのも簡単だ。

貴重な学校生活を奪われた学生や、孤独に一人で暮らす人、粗末なアパートに住む人、働き始めたばかりの社会人、仲間との交流やオフィスに出勤する職場環境がとても重要な人......こうした人々に比べて、むしろ快適なコロナ禍生活を送っている人もいるのだ。

僕は特に、ウイルスのリスクは最小限なのにもかかわらず、より大きな犠牲を払った若者たちに、感謝の念を覚える。彼らは「自由の日」を味わうに値する。

20240423issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月23日号(4月16日発売)は「老人極貧社会 韓国」特集。老人貧困率は先進国最悪。過酷バイトに食料配給……繫栄から取り残され困窮する高齢者は日本の未来の姿

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック続落、金利の道筋見

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円・ユーロで上昇、FRB議長

ビジネス

制約的政策、当面維持も インフレ低下確信に時間要=

ビジネス

米鉱工業生産、3月製造業は0.5%上昇 市場予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story