コラム

ドイツ極右、移民200万人を北アフリカに強制移住させる計画が暴露される

2024年02月27日(火)19時20分

特に移民に対する反感は深刻になっており、移民排斥を唱えるのはもはや極右ではなくヨーロッパの多数派なのだ、という指摘もあるくらいだ。それを反映してEUの新しい移民法は金を払えば移民を追い返すことができるようになっている。それも決して民主主義的とは言えない地域にだ。そして、こうした動きの背景には中露がいる。本誌記事にもあったように中国はヨーロッパの極右勢力を支援しているし、ロシアは以前からイデオロギーを問わず極右、極左を支援してきた。

日本ではいまだに偽情報やプロパガンダをデジタル影響工作の中心ととらえているが、昨年暮れに機密解除されたアメリカ国家情報会議のレポートは自ら発信するのではなく、相手国の国内活動を拡散し、煽ることが中心となっていることを指摘している。より正確に言えば、特にロシアは以前から相手国内の問題を拡散し、煽ることに注力しており、これまでの欧米の対策は的外れだったと言える。

 
 

最大200万人を北アフリカに強制移住計画の暴露

抗議運動が燃えさかり、極右政党AfDの支持が高まる中で信じられない事件が起きた。AfDの幹部(党首補佐官)とドイツ最大野党のCDUなどのメンバーが参加した会合(デュッセルドルフ・フォーラム)で、ドイツ国内の移民(すでにドイツ国籍を持つ者も含め)最大200万人を北アフリカに強制移住させる計画が話し合われた。計画の名称は、「マスタープラン」。

この計画の実現には数十年が必要で、圧力がかかると彼らは認識していた。必要な資金を調達したうえで、インフルエンサーの利用、プロパガンダの流布、キャンペーン、大学プロジェクトなどを展開して、右傾化した社会を作ろうとしていた。最終的には、選挙に疑問を呈し、憲法裁判所の信用を失墜させ、反対意見を弾圧し、公共放送を検閲することによって、ドイツの民主主義を崩壊させる。会ではそのための具体的な方法が検討された。

調査報道機関Correctivが潜入調査を行って会の様子を暴露した。当然のことながら、猛烈な反発が広がり、ドイツ全土で200万人を超える人々が抗議集会を行った。多くの報道は民主主義を尊重するドイツ国民の意思の表れとしているが、ほんとうにそうなのかどうかはこれからわかる。AfDの支持は下がったようだが、政治活動を禁止されたわけではない。AfDがドイツ社会で許容され続けるならば、この大規模な抗議集会は分断の深さを象徴しているだけになる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、ノンバンク住宅ローン業界の対策強化を訴

ビジネス

再送-インタビュー:金利も市場機能働く本来の姿に=

ビジネス

アマゾンやファイザーが対仏投資計画、モルガンSはパ

ビジネス

シティ、インドの投資判断を引き上げ 安定収益と経済
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story