コラム

暗号通貨が変わる? デジタルドルの衝撃──バイデンの大統領令の意味

2022年03月18日(金)16時43分

大統領令には多くのことが盛り込まれており、180日など短い期間で8つの報告書を提出するように各省庁に命じている。この中で特に気になるのは下記の点だ。

・アメリカが世界の金融をリードし、自国の競争力を確保する
中央銀行の方針および行動に関するセクション4では、世界各国のCBDCについてアメリカがリードすべきと書いてあり、他のセクションではアメリカはこれまで国際協力をリードしてきたことを強調している。つまり、これからも国際協力をリードし、標準を作るのはアメリカであり、標準となるのはドルしかない(そうすべきだ)と言っているように読める。そしてこれらを通してアメリカの競争力を確保する。

・CBDCは民主的な価値観に沿ったものでなければならない
ロシア、北朝鮮、イランなど、暗号通貨を制裁逃れや不正資金調達に利用してきた国々や、近年のランサムウェアなどのサイバー犯罪、マネーロンダリングの排除を狙っている。民主主義は恣意的に利用できる言葉なので、世論の反発さえなければ、アメリカは自由に制裁をくわえたい相手に実行できることを意味する。

・プライバシーを重視する
大統領令の中では繰り返し(9回)、プライバシーの重視について言及している。

・環境(地球温暖化)への影響を配慮する
暗に大量の電力を消費する既存の暗号通貨好ましくないと言っているようだ。

・CBDCの導入を緊急に検討する必要性を訴えている


さらに、今回の大統領令は、2021年7月アメリカ下院金融委員会の公聴会での証言や議論と重なる部分が多く、大統領令ではいくぶんまわりくどくやわらない表現になっていることが、公聴会でははっきり狙いが語られていたりする。特に中国への言及は多い。

・先行している中国の脅威への対応
2020年4月、中国は4都市でデジタル通貨を試験的に導入し、現金とデジタルマネー間の変換、口座残高の確認、支払いなどの内部テストを実施した。2020年8月には28の主要都市で実験が行われた。2021年6月には中国人民銀行(PBOC)は、約2,100万人と350万の企業のデジタル人民元ウォレットを開設し、総取引額は約53億9000万ドルに相当したと発表した。

これらの実験で中国人民銀行は、プログラム可能な通貨を使用した。使わなければ失効したり、特定の施設でのみ使用したりできる通貨を作り出した。プログラム可能な通貨には、財政的にも金融的にも重要な意味がある。

・中国以外の国に追いつき、リードする必要性
世界で最も影響力のある4つの中央銀行(アメリカ連邦準備制度理事会、欧州中央銀行、日本銀行、イングランド銀行)の中では、アメリカが最も遅れている。欧州中央銀行は4年以内にデジタルユーロを開発することを明らかにしている。アメリカは早期に追いつく必要がある。

・世界のCBDCの管理と国際協調をアメリカ主導でもたらす
相互運用性はきわめて重要であるにもかかわらず、各国は自国内でのCBDC導入に注力し、自国に最適になるよう技術システムやセキュリティシステムを構築している。そのため、CBDCが国境を越えた取引で交換されたり使用されたりする際に、問題が発生する可能性がある。これを防ぐためには国際協調が不可欠であり、アメリカとデジタルドルが国際協調をリードする。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story