コラム

アントニオ猪木、歴史に埋もれたイラクでの「発言」

2022年11月14日(月)13時10分
アントニオ猪木

10月1日に亡くなったアントニオ猪木。プロレスラーとして一時代を築いた後、政界に転じた Toru Hanai-REUTERS

<10月1日に亡くなった猪木は、1990年に湾岸戦争が起こると、参院議員として日本人人質解放に尽力した。当時、在クウェート大使館員だった筆者はイラクに連れて行かれ、約4カ月間バグダードで働いていたが、その時の現地紙を掘り起こすと、猪木に関する気になる記事があった>

勤務先のオフィスレイアウト改修にともない、大量の資料が自宅に戻ってきた。

新たに本棚を購入したり、不要になった資料(書籍やファイル)を捨てたり、デジタル化したりで、何とか急場をしのいでいるが、もはや、自宅は、トイレを含め、すべての部屋とほとんどの廊下が本棚で埋まってしまい、残るは風呂場のなかだけという有様である(ただし、風呂場も脱衣所と洗面所はすでに本で埋まっている)。

というわけで、暇をみては、紙の資料のデジタル化を進めているのだが、焼け石に水の状態だ。

ただ、いろいろひっくり返していると、それまですっかり忘れていたものが出てくることがある。研究者の悪い癖で、面白そうなものが見つかると、それに飛びついて、肝心のデジタル化や本務がおろそかになってしまう。

そんなとき、プロレスラーのアントニオ猪木が亡くなった。子どものころはちょうど馬場・猪木のインター・タッグ王座時代ど真ん中だったので、ご多分に漏れず、熱狂的なプロレスファンとなっていた。

もっとも、当時は馬場派だったが、その後、村松具視の名著『私、プロレスの味方です』に感化され、猪木的なプロレスにも惹かれていき、独自のプロレス理論(?)を構築しては悦に入っていた。

資料整理と猪木のあいだに何の関係があるかというと、家に送り返さねばならない資料のなかに1990年代のイラクの新聞があったのだ。猪木死亡の報道を受け、そういえば、そのイラクの新聞のなかに猪木のことが出ていたなあと思い出したわけである。

人質の部分開放に成功したのは中曽根と猪木ぐらい

日本のメディアにおける猪木の訃報では、ほぼかならずといっていいぐらい、1990年の湾岸危機で猪木がイラクの人質になっていた日本人解放のため尽力したことについて触れてあった。

当時、私は在クウェート日本大使館で専門調査員をやっており、イラクのクウェート侵攻後は、他のクウェート在住日本人とともに、イラクに移動していた。

他の日本人たちは事実上の人質としてイラクの戦略的要衝に連れていかれたが、私は、外交官ではないものの、大使館員だったために、人質としてへんなところに連行されることはなく、ただ、イラクから出国できないまま、在イラク日本大使館で働くことになった。

8月なかばから12月なかばまでの約4か月間、バグダードの日本大使館の政務班室で朝から夜中まで新聞を読んで、ラジオを聞いて、テレビを見て、電報を書くという仕事をまったく休みなくつづけ、ひたすら働いていた記憶がある。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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