コラム

バーレーンの金メダリストの大半は帰化人だった

2018年09月26日(水)11時55分

カタルの場合も、男子400メートルの金メダルはアブデルイラーフ・ハールーン(スーダン)、男子ハンマー投げはアシュラフ・セイフィー(エジプト)、男子400メートルハードルはアブドゥッラフマーン・サンバ(モーリタニア)だ。同様に男子4×400メートルでは4人中3人が外国出身選手であり、ビーチバレーも2人中1人が外国生まれ、ハンドボールチームもエジプト、シリア、フランス、キューバ、ボスニアなどさまざまな国からの帰化選手が混じっている。

同じ湾岸アラブ産油国でもたしかにクウェートやUAEのメダリストにも帰化選手が含まれているが、それほど目立つわけではない。また、サウジアラビアでは帰化選手のメダリストはいなかったし、上述のようにオマーンは今回メダルを取れなかった。バハレーンやカタルだけがこのようなアグレッシブな有力選手獲得政策を採っているのである。

頭脳流出ならぬ肉体流出でナイジェリアと対立?

取り立てて特徴のない小国だからこそ、スポーツで国威発揚することで、みずからの存在を内外にアピールする必要があるということだろうか。

お金の力といってしまえば、それまでだが、たしかに天然ガス大国であるカタルはめちゃくちゃ金持ちだけれど、バハレーンは石油がほとんど枯渇しているので、けっして金持ちというわけではない。実際、バハレーンでは失業や経済の低迷で暴動まで発生しているのである。逆にいえば、こうした国難の時期であるからこそ、スポーツで国威発揚させ、バハレーン人としてのアイデンティティーを強める必要があるとも考えられる。

一方、カタルは大金持ちなので、経済面の心配をする必要はない。しかし、1990年代なかごろから、カタルは独自外交を展開し、周辺国と対立してきた。昨年にはそのせいでサウジアラビア・UAE・バハレーン・エジプトと断交され、経済封鎖までされているのである。やはり、カタル人意識を高めなければならないという認識は指導層にはあるはずである。

もちろん、バハレーンもカタルも報道の自由も政治的自由もないので、お上がこうした政策を取ったとしても、下々は唯々諾々と従わざるをえない。

もちろん問題はある。たとえば、バハレーンのメダリストのなかではナイジェリア出身者が目立つが、ナイジェリアのスポーツ関係者からみれば、せっかくの有力選手が金の力でごっそり引き抜かれるわけで、たまったものではないはずだ。両国間で頭脳流出ならぬ肉体流出をめぐって対立があるとも報じられた。

とくにアフリカの選手からみれば、よりよい環境を求めて国籍を変えるというのが選択肢として一般的になっているのだろう(だからこそメダルがアフリカ出身選手が得意とする陸上に集中するということか)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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