ニュース速報
ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐えるウクライナ

2025年07月19日(土)07時48分

ウクライナ軍とロシア軍が対峙(たいじ)する最前線地帯は幅約10キロメートルにわたってドローンがひしめき合っており、ウクライナ兵は「殺戮(さつりく)ゾーン」と呼ぶ。写真はFPV(ファースト・パーソン・ビュー、一人称視点)のドローンを準備するウクライナ兵。5月8日、同国中部ドニエプロペトロフスク州の前線付近で撮影(2025年 ロイター/Alina Smutko)

Max Hunder Sabine Siebold Manuel Ausloos

[キーウ/ベルリン 17日 ロイター] - 「どこもかしこもドローンだらけ。ドローンしか存在しない。大量のドローンだけだ」――負傷治療のため前線から後送されたウクライナ軍の35歳の「イワン」と名乗る小隊長は、様相が一変した現代の戦争を疲れた表情でこのように表現した。

前線には自爆型から監視用、爆撃用、迎撃用までさまざまな種類のドローンが非常に多く飛び交っている。

ウクライナが今年に入ってからロシア軍の前進を食い止め、攻撃企図をくじくことが可能だと信じる主な根拠がこれらの安価で強力なドローンであることが、ウクライナ軍の司令官や政府高官、国防にかかわる武器メーカーなどへの取材を通じてみえてくる。

ウクライナ軍とロシア軍が対峙(たいじ)する最前線地帯は幅約10キロメートルにわたってドローンがひしめき合っており、ウクライナ兵は「殺戮(さつりく)ゾーン」と呼ぶ。なぜなら両軍が展開する遠隔操作の無人機(UAV)が素早く標的を発見し、無力化できるからだ。

前線で戦う2人のウクライナ軍司令官は、かつてないほど大量のドローンを投入する形に戦争が進化したことで、兵力や大砲・戦車数でのロシア軍の優位が帳消しになっていると説明した。

もはや前線付近で活動する大型車両はドローンにとって格好の餌食でしかないので、ロシア軍は2022年に成功したような、装甲車両を連ねて急速な前進を図ることが不可能になった――各司令官や、前線配置のドローン操縦者1万5000人以上が取得した動画データを集約する非営利デジタルシステム「OCHI」創設者のオレクサンドル・ドミトリエフ氏はこう分析する。

ドミトリエフ氏は「どこにいても、どんな車両を運転していても敵には丸見えだ」と述べた。

もっともロシア軍もこれに対応し、今は5-6人の少数兵士が徒歩ないしオートバイ、四輪バギーなどに乗って発砲しながらウクライナ側の布陣を探り、その後ドローン攻撃を仕掛けるという戦術を採用するようになった。

戦争の形が変わってもロシア軍の全体的な優位は変わらず、ウクライナ東部と北部ではゆっくりとはいえ、着実に前進を続けている。軍事専門家の見立てでは、UAV関連技術の面でもロシアがウクライナに対する当初の遅れを解消し、年間国内生産量もウクライナ並みの数百万機に達している。

前線をたびたび訪れているポーランドの軍事アナリスト、コンラッド・ムジカ氏は、ウクライナが重点を置くのはロシアの攻撃力を削ることであり、攻勢に出る能力はないとの見方を示した。

兵力不足やロシアの物量の前で、ウクライナは長期の消耗戦に苦しみそうだとみているムジカ氏は、ドローンは戦場に変化をもたらしたとはいえ、砲兵や迫撃砲がない状況を補えるほどの力はないと警告する。

ムジカ氏によると、大砲の砲弾一発と同じ損害を標的に与えるためには数十機のドローンを投入しなければならず、ドローンはある程度の救いにはなっても大砲の代わりにはならないという。

<長距離UAVに期待>

それでも全長1000キロに及ぶ最前線の「殺戮ゾーン」で活動する兵士らにとって、ドローンは悪魔のような存在だ。

プラスチックや発泡スチロールでできた小型飛行機に似た両軍の偵察用UAVは高性能カメラを搭載し、数キロ先から敵を発見でき、前線上空をホバリングして見える景色をリアルタイムで報告する。

偵察用UAVが見つけた標的には、3Dプリントされた尾翼で精密手榴弾を投下できるコーヒーテーブルほどの大きさのヘキサコプターや、装甲を貫通するRPG弾頭を取り付けた自爆型ドローンを、兵士や戦車、武器システムに飛来させることができる。

「イワン」小隊長は、両軍の兵士の命にとって今は砲弾や地雷、敵兵よりもUAVが最大の脅威だと話した。

小隊長を輸送する車両に同乗していた医療チームの1人も、戦地において最も多く治療しているのはUAVによる負傷だと認めた。

ウクライナ軍の内部算定資料をロイターが確認したところ、2024年のロシア軍歩兵に対する攻撃の69%、車両・装備攻撃の75%がドローンによるものだった。大砲による攻撃の比率は対歩兵が約18%、対車両・装備が15%にとどまり、迫撃砲攻撃はもっと少ない。

戦争中にはドローンに関する多くの技術革新も生まれ、双方の軍が電子妨害を受けない短距離型の有線ドローンや、敵の偵察用ドローンや攻撃用ドローンを撃墜する迎撃用ドローンを配備している。

6月初めまでウクライナのドローン部隊の司令官だったバディム・スハレフスキー氏は、今年中に3万機の長距離UAVを生産する計画があり、ウクライナの攻撃能力は高まると主張する。ロシア国内の奥深くにある兵器庫やエネルギー施設を標的にできるからだ。

スハレフスキー氏は司令官時代に受けたインタビューで、この長距離UAV1機と射程距離が同じミサイル一発を比べると、弾頭はUAVの方が小さいが、UAVの生産費用は平均5万-30万ドルとミサイルの10分の1程度で済むと話している。

同氏は「ミサイルが不足しているからこそ、こうしたドローンの開発に着手した」と説明。「これがわれわれの『非対称的』な答えだ」と語った。

ゼレンスキー大統領の戦略顧問を務めるオレクサンドル・カミシン氏は「守り一辺倒では、大規模な戦争には勝てない」と説明。長距離ドローン攻撃は「今、ウクライナがロシアに対抗しうる最重要カードの一つだ」と述べた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マイクロソフト、7─9月に過去最高の300億ドル支

ワールド

韓国との貿易協定に合意、相互関税15% トランプ米

ワールド

カナダもパレスチナ国家承認の意向表明、イスラエル反

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き トランプ氏任命の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 9
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中