ニュース速報
ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業 教育格差に懸念も

2024年05月04日(土)08時10分

 4月に記録的な熱波が観測されたフィリピンでは、子どもたちが自宅でオンライン授業を受けることを余儀なくされている。写真は自宅からオンライン授業に参加する生徒。2020年10月、マニラで撮影(2024年 ロイター/Eloisa Lopez)

Mariejo Ramos

[ケソン市(フィリピン) 24日 トムソン・ロイター財団] - 4月に記録的な熱波が観測されたフィリピンでは、子どもたちが自宅でオンライン授業を受けることを余儀なくされている。新型コロナのロックダウンの記憶がよみがえる中、今後も続くとみられる異常気象が、教育格差を深刻化させる恐れが浮上している。

多くの地域で異例の暑さが観測された4月中旬、フィリピン国内の公立学校7000校の生徒たちは帰宅を促された。気象予報士らは今回の高温をエルニーニョ現象と関連付けている。

首都マニラ近郊の都市ケソンにある公立小学校で教壇に立つエルリンダ・アルフォンソさん(47)は、すし詰め状態の教室で汗だくになりながら授業を受けることと、自宅学習に取り組むことのどちらが自身の生徒にとってより悪影響なのか、分からないと話す。

「何人かの生徒から、自宅の方が暑さが深刻だから学校にいる方がよいという話を聞いた」とアルフォンソさんは語った。彼女の生徒の多くはスラム街周辺に住んでおり、家にはオンライン授業に参加するためのインターネットが接続されていないという。アルフォンソさんはケソン市の公立学校教師協会のトップも務めている。

教員は、自宅にネット環境がない生徒にはオフラインで取り組める課題を与えている。ただ、この対応では生徒が質問できる相手がいない、とアルフォンソさんは指摘する。

「生徒が勉強中に分からないことがあっても、親やきょうだいは仕事に出ていて家にいないことがほとんどだ」

フィリピンは、コロナ禍の学校閉鎖期間が世界で最も長かった国の一つだ。長期間の閉鎖は、パソコンや十分なインターネット環境がない低所得家庭の子どもが直面する教育の不平等を浮き彫りにした。

人口1億1500万人の同国では、公立学校の大半で猛暑などの異常気象に対処する設備が整っておらず、現在発生している熱波の中ではオンライン授業が最も安全な選択肢だ、と教師や教育連盟などは説明している。

3月にマニラ首都圏の公立校で8000人以上を対象に行われた調査によると、生徒の87%が高温による体調不良に苦しんだ経験があることがわかった。

教師団体ACTのマニラ首都圏部門(ACT-NCR)が実施した調査では、教師の4分の3以上が、熱波が「耐え難い」との認識を示した。

また、46%の教師が教室には扇風機1、2台しかないと回答しており、換気対策が不十分であることが明らかになった。

「暑さは子どもたちに重大な影響を及ぼしている。教室で倒れる生徒もいるほどだ。教員にとっても厳しいが、教室内では生徒の健康を第一に考えていることがほとんどだ」とACTーNCR広報のルビー・ベルナルド氏はトムソン・ロイター財団に語った。

<高温化・長期化する熱波>

気候変動が熱波の頻度と厳しさに拍車をかける中、フィリピンの教師や生徒に降りかかる問題は他の場所でも起こるとみられている。

国連児童基金(ユニセフ)は4月中旬、アジア・太平洋地域で暮らす約2億4300万人の子どもが、今後数カ月以上の間、高温化・長期化する熱波にさらされることが推測されると発表した。

子どもは熱中症になるリスクが高い。ユニセフは、長時間酷暑にさらされることで集中力や学習力にも影響があると指摘する。

昨年半ばにエルニーニョ現象が発生して以降、フィリピン気象庁は暑さ指標で「危険」に分類される44度まで気温が上がるという予報を出す日もある。

教員不足・教室の不足によって混み合う教室の解消、飲用水の無料提供、学校現場への看護師や医師の配置まで、さらなる猛暑対策が必要だとフィリピンの教師らは声を上げている。

ACTは教育省に対し、こうした問題に取り組むよう呼びかけるほか、暑い時期にあたる4─5月が長期休暇となるパンデミック前の学校暦を早急に復活させることを求めている。

教育省の広報にコメントを求めたところ、オンライン授業や自宅学習へ切り替える決定を各校の校長に委ねる方針について「より早急かつ有効に酷暑に対応することが可能だ。型にはまった変更では学習の回復をさらに妨げる可能性もある」と述べた。

一部の教師は、現在の苦境は、気候変動教育の必要性を明確化していると指摘する。

「この国の授業では、気候変動が包括的に教えられていなかった。だが、気候変動こそが、教育システムがいま直面しているすべての課題につながっている、差し迫った問題だ」とACTーNCRのベルナルド広報は述べた。

低賃金で働く公立学校教師の多くは、冷房がない、もしくは整備されていない、すし詰め状態の教室で教壇に立ちながらも、我慢の限界を迎えつつある。

教師のアルフォンソさんはこう吐露した。

「この暑さでは、辞職したり早期退職することを考えてしまう」

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中