コラム

インターネットは、国単位で分割される「スプリンターネット」になりつつある

2019年03月15日(金)13時45分

DancingMan-iStock

<ウェブやインターネットは単一で万国共通のもの......という状況は、ここ数年で大きく変化しつつある。国単位で分割されつつ>

www.yahoo.co.jp のようなアドレスを、我々は毎日目にしている。先頭のwwwが何を示しているのか、もはや気にもしないだろう。もちろんWWWというのは、World Wide Webの略である。

我々は最近まで、ウェブがワールド・ワイドであることを疑いもしなかった。日本にいようが、アメリカにいようが、ドイツにいようが、シンガポールにいようが、www.yahoo.co.jp とウェブブラウザに入力すれば、同じヤフーのウェブサイトを閲覧できると確信できたのである。

中国ではTwitterやFacebookが使えず、トルコも......

しかし、ここ数年で状況は大きく変化しつつある。有名な例として、中国でWikipediaを見ようとすると、政治絡みの一部のページにアクセスできないのはよく知られている。TwitterやFacebook、Googleも中国からは使えない。使えるのはWeiboでありBaiduであり、全くの別世界なのだ。私も先日香港にいたとき、何の気なしにスマホでNetflixを見ようとしたら、日本にいるときとはずいぶん違う番組ばかりが表示されて今更ながら驚いたことがある。トルコからは、そもそもWikipediaにアクセスできなかった。全言語版がブロックされているのだ。

ウェブやインターネットは単一で万国共通のもの、というのは、歴史を振り返ると多分に偶然の産物である。結局のところアメリカという一国が開発を主導したので、たまたまそうなったという面が強い。

1990年代に入ってWWWが生まれ、インターネットが爆発的に普及すると、「サイバースペース」という単一の世界が存在し、それと物理的な世界が対立関係にある、という感覚が広く共有されるようになった。昨年亡くなったジョン・ペリー・バーロウが1996年に発表したサイバースペース独立宣言は、まさにそうした考え方から生まれたものと言えよう。

単一の「サイバースペース」はもはや存在しない

しかし、今や我々が使っているインターネットは、彼らが使っている「インターネット」(厳密にはイントラネットと呼ぶべきか)とは違うのである。我々が見られるページが、彼らには見られなかったり、彼らに見えるものとは全く別物だったりする。単一の「サイバースペース」はもはや存在しないのだ。これを、スプリンターネット(splinternet)と呼ぶ。splinterとは分裂のことだ。

分裂というと小さな一部分が分かれたような印象があるが、ネットのユーザ数で見れば、2017年の時点で中国は8億人に迫っている。アメリカは2億5千万人程度、日本は1億2千万人程度で、足しても中国にはとうてい及ばない。分裂というよりは、似て非なる全く別のものが現れたと考えたほうが実態に即している。そして、それは我々よりもはるかに巨大なのだ。

プロフィール

八田真行

1979年東京生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。一般財団法人知的財産研究所特別研究員を経て、現在駿河台大学経済経営学部准教授。専攻は経営組織論、経営情報論。Debian公式開発者、GNUプロジェクトメンバ、一般社団法人インターネットユーザー協会 (MIAU)発起人・幹事会員。Open Knowledge Foundation Japan発起人。共著に『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、『ソフトウェアの匠』(日経BP社)、共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

加藤財務相、米財務長官の「円高望ましい」発言報道を

ビジネス

ウォーシュ元理事、FRBを「権限逸脱」と批判 運営

ワールド

ガザ交渉で一定の進展、紛争終結巡る見解なお相違=カ

ビジネス

国際貿易・政策不確実性が主要リスク=FRB金融安定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story