zzzzz

コラム

鳩山が勝てない「お坊ちゃま戦争」

2009年05月16日(土)23時38分

 民主党は新しい代表に鳩山由紀夫を選んだ。この選択を民主党は後悔することになるかもしれない。

 前代表の小沢一郎の「操り人形」云々というのが理由ではない。問題は鳩山由紀夫という政治家のキャラクターだ。

 鳩山由紀夫と弟の邦夫(知ってのとおり、今は麻生内閣の総務相を務めている)が中心になって、現在の民主党の前身となる旧民主党を結成したのは1996年。兄弟は所属していた新党さきがけ(由紀夫)と新進党(邦夫)を離党して、民主党をつくった。

 当時、民主党は「兄弟私党」としばしば揶揄された。そのイメージに拍車をかけたのが兄弟の母親の存在だった。鳩山兄弟はいい大人になっても「母親がこう言った」だの「母親が反対した」だのとしきりに口にしていた。鳩山が弟との新党結成に踏み切る上で母親に強く背中を押されたことは、よく知られている。

 民主党誕生の過程では、鳩山の不手際も目立った。新党の結成を早まって発表した件では、さきがけ代表の武村正義の反感を買い、ごたごたの原因を招いた。

 大昔の話? いや、そうとは言い切れない。このエピソードが浮き彫りにする鳩山のキャラクターを考えると、民主党のリーダー、さらには(次の選挙で民主党が勝てば)日本の首相の役割が務まるのか不安を感じずにいられない。

 政治の世界に入って以来、鳩山は強いリーダーシップを発揮するというより、ある種の弱さを見せ続けてきた。その点で小沢とは対照的だ。ぶっきらぼうな小沢の尻拭いをする補佐役としては、こういうキャラクターの鳩山が最適任だったのかもしれない。しかしそれが党首として、首相としてふさわしい資質なのかは疑わしい。

 首相になれば、鳩山は党内の結束を維持し、連立政権を組む小政党をうまく扱い、頑固な官僚たちに言うことを聞かせなくてはならない。豪腕小沢をもってしても簡単な仕事ではない。鳩山にその役割が務まるだろうか。

 それ以上に見過ごせないのは、鳩山が名門政治一家の「プリンス」だということだ。鳩山が民主党の代表に就任したことで、次の総選挙を、半世紀以上前に鳩山と麻生の祖父の間で戦われた政治闘争の「再選」と位置付ける向きも多い。

 鳩山由紀夫の祖父は鳩山一郎、麻生太郎の祖父は吉田茂。この2人の政治家は、第2次大戦直後の日本の保守政界の主導権をめぐり激しく対立した。その孫同士がいま首相の座を懸けて争うという図式は、確かにドラマチックだ。

 しかし私が思うに、プリンスをリーダーに据えることで失うものは、自民党より民主党のほうが大きい。自民党の強みは、過去半世紀以上にわたり国を統治してきたおかげで国民の期待値が下がっていること。元々それほど期待されていないので、よほどひどいことをしない限り、スキャンダルや失敗があっても新たに大きな傷を負わずに切り抜けられる。

 そうした恩恵は、新しい政治勢力である民主党には与えられない。改革派を標榜する民主党が国民との約束を守れなければ、自民党以上に大きな痛手を被る。

 有権者のほとんどは、鳩山が代表に就任したというだけの理由で民主党に愛想を尽かしたりはしないかもしれない。しかしわずかな票の行方が選挙後の勢力図を大きく左右することもありうる。少数の有権者の行動次第で、民主党が衆議院の議席の過半数を制することができなかったり、第1党の座を逃したりする可能性もある。

 ここで、鳩山のキャラクターと経歴が大きな意味を持つ。名門政治一家の御曹司2人の二者択一の状況で、片方は目立つことにより政界で頭角を現し、首相としてまずまずの仕事をしてきた人物。もう片方は、ほかの政治家と比べて影が薄い印象が否めない人物。有権者はどちらのプリンスを選びたいだろうか。

 民主党が押し立てる指導者の資質が問題なのは、自民党の戦術が変わったためでもある。07年の参院選で大敗して以降、自民党は憲法改正などのイデオロギーより、選挙に勝てる政策を重んじるようになった。具体的には、不景気と戦う政党というイメージを前面に押し出そうとしている。

 これまでも麻生は、小泉政権が推し進めた構造改革の見直しに前向きな姿勢を見せてきた。「(小泉構造改革の痛みに)対応するためには、痛み止めがいったり、輸血がいる」と、5月15日にも述べている

 自民党がこうした戦術に転換している以上、民主党としては単に自民党の「弱者切り捨て」を批判するだけでは選挙に勝てない。民主党に必要なのは、小泉純一郎を首相の座に押し上げ、絶大な人気を維持させ続けた「目に見えない何か」だ。

 鳩山新代表がその「何か」を持っていないのは明らかだし、その点では鳩山と代表の座を戦った岡田克也も同じだ。民主党にそれを持っている人材がいるとすれば、おそらく小沢だった。

 こうして、またしても「ふたを開けてみれば自民党」というシナリオが現実味を帯びてくる。景気刺激策をいくつか実行し、「民主党政権」への不安論を煽り、あとは野党陣営の迫力不足と足並みの乱れに助けられ、そしてちょっとした幸運に恵まれれば、結局は自民党が選挙に勝って政権を握り続けないとも限らない。

 次の総選挙で自民党が勝つと、いま断言するつもりはない。選挙までの間に何が起きるか分からない。民主党が大躍進する可能性はまだ十分に残されている。

 しかし鳩山をトップにいただく民主党は、あまりに見栄えがしない。死に物狂いで政権を維持しようとする自民党と戦うには、あまりに頼りない。「民主党には政権担当能力がない」という自民党や自民党寄りのメディアのおなじみの批判をはね返すには、あまりに弱々しく見える。

(C) photograph by Yuriko Nakao-Reuters

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story