コラム

ニッポンを再び「大国」にした、安倍元首相の功罪とは?

2022年08月09日(火)10時27分
安倍晋三

安倍はアメリカやその他のインド太平洋諸国と連携して地域覇権を狙う中国に対抗した KEVIN LAMARQUEーREUTERS

<自分が屈辱的に見えることを犠牲にしてもトランプとうまく付き合い、クアッドやアベノミクスなど功績がある一方で、「ナショナリズムの歴史」とは一線を画すことができなかった。元首相が歴史に残したことは何か?>

安倍晋三元首相は、第2次大戦後の日本で最も重要な政治指導者として名を残すはずだ。安倍は他国との連携強化を推進したナショナリストであり、日本経済の最も深刻な構造的問題に大胆に切り込んだ。

1960年代初め以降、経済大国だが政治的には弱腰だった日本を再び世界的な外交・軍事・経済大国に押し上げたのも安倍の功績だ。「ジャパン・イズ・バック(日本が帰ってきた)!」と、安倍は何度も繰り返した。ほとんどの面で安倍が正しかったことは、反対派も認めざるを得ないだろう。

安倍は「保守」の政治家と思われていたが、その外交・軍事・経済政策は世界における日本の役割と野心に関する古い固定観念や非公式のタブーに挑戦するものだった。

安倍は日本を、安全保障面で依存するアメリカに唯々諾々と従う同盟国から、アメリカの重要なパートナーでありながら、必要に応じてより積極的で独立した政策を追求する国に変えようとしたのだ。

安倍の狙いは、中国の台頭と地域覇権を狙う野心に対抗することだった。そのため2007年には、アメリカ、オーストラリア、インドとのクアッド(日米豪印戦略対話)の創設を主導した。クアッドの表向きの目的は「自由で開かれたインド太平洋」を守ることだったが、実態は攻勢を強める中国への対抗措置だ。

中国の王毅(ワン・イー)外相は当初、「太平洋やインド洋に浮かぶ泡のようなものだ。すぐに消える」と酷評した。だがその後、中国の(そしてロシアの)侮蔑は警戒に変わった。そのこと自体、クアッドの地政学的重要性と成功の証左だ。王は現在、クアッドを「インド太平洋のNATO」と位置付け、「地政学的対立をあおるものだ」と批判している。

安倍は以前から、攻撃的姿勢を強める中国の国際秩序への挑戦に警鐘を鳴らしていた。安倍の最近の発言の1つは、もし中国が台湾に侵攻した場合、日本は台湾を軍事的に防衛すべきと示唆したものだった。

日本の安全保障と外交の要は、もちろん対米関係だった。安倍はドナルド・トランプ前大統領時代のアメリカと特権的かつ緊密な関係を維持するため、大きな、時には屈辱的にも映る努力を払った。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story