コラム

2年乗った車が購入時よりも高く売れるアメリカ、限度を超えたインフレの行方

2022年06月28日(火)13時43分

220705p22_CAL_03.jpg

ニューヨークのレストランの求人は時給17ドルから SHANNON STAPLETONーREUTERS

これらの要素以上に、アメリカ人の物価感覚や景気感覚を大きく左右する要素がある。それはガソリンと自動車の価格である。アメリカ人は、仕事でも私生活でも自動車中心に生活を組み立てているからだ。

アメリカのガソリン価格は、今年に入って約1.5倍に上昇し、1ガロン当たり5ドルに達している。実は、インフレ調整済みの値を見ると、ガソリン価格は過去40年間ほとんど変わっていない。しかし、人々の生活実感は異なる。最近のガソリン価格の急上昇により、庶民の家計は大きく圧迫されている。

ガソリンだけではない。自動車の価格も上昇している。最近、息子が中古車を購入しようとしたのだが、新型コロナの影響で新車の供給が不足しているために、中古車相場も上昇していた。

中古車価格はこの1年間で平均16.1%上昇し、車種によっては1万ドル以上高騰しているケースも珍しくない。あまりの値段の高さに驚いた息子は購入を諦めて、妻の古い車に乗ることにした。

実際、中古車相場には目を見張るものがある。今年、妻が2年乗ったテスラ車を売却したところ、購入したときに支払った価格より高く売れたのだ。妻はしばらく新しい車を買うつもりはないという。サプライチェーンの問題が解消されて、新車と中古車の供給不足が和らぐまで待つつもりだ。

もっとも、それは1年先なのか、それとも2年先なのか。いずれにせよ、11月の中間選挙で民主党の苦境を救うには間に合わないだろう。

旺盛な需要と供給の遅れにより、新車の価格は最近1年間で12.6%上昇している。テスラ社は3月に基本価格を2500ドル前後引き上げ、6月半ばにさらに最大6000ドル引き上げた。ほかの自動車メーカーもこぞって値上げに踏み切っている。

新車の納車待ちの期間も非常に長くなっている。車が手に入るまでの期間は平均して12週間。一部の車種は、1年以上待たなくてはならない。

幸い、私と妻は、ガソリン価格高騰の影響を受けずに済んでいる。韓国メーカー、起亜自動車の電気自動車に乗っているからだ。最近、電力価格も大幅に上昇してはいるのだが、電気自動車を1キロ走らせるためにかかるコストは、ガソリン車の3分の1程度で済むのだ。

金利引き上げの効果は?

しかし、アメリカの自動車所有者の98%は、いまだにガソリン車に乗っている。これらの人たちは、ガソリン価格の上昇に悲鳴を上げている。

アメリカの多くの家庭は、厳しい選択を突き付けられている。職場に通勤するためにガソリンを購入することを選ぶか、病気の家族のために薬を購入することを選ぶかという究極の選択だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内利下げに不透明感 インフレ抑制に「進展

ワールド

インド東部で4月の最高気温更新、熱波で9人死亡 総

ビジネス

国債買入の調整は時間かけて、能動的な政策手段とせず

ビジネス

カナダ中銀、利下げ「近づく」と総裁 物価安定の進展
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story