コラム

ゾンビを冒涜する日本のハロウィンが笑えない理由──ハロウィン栄えて国亡ぶ2

2022年10月26日(水)11時58分

ゾンビの仮装者は、まずこのようなロメロの系譜をしっかりと押さえなければならない。繰り返すようだが、ゾンビは生前一般市民であるので衣装にあっては「ごく自然な街頭での格好」に血のりを付けるなどするべきである。特定の職業における格好に着替えるのはそもそもの流儀に反するのである。

またゾンビはその歩行速度に差異はあるものの、「(基本的には)会話しない、(生者以外を)食べない」存在であるから、仮装の最中に飲食をすることは出来ないはずであるし、コミュニケーションもとってはならないと解釈することもできる。勿論ウェーイと言って写真を撮ったりインスタグラムに上げるのもご法度である。ゾンビは原則的に知的行動をしないからだ。このような事実を踏まえると、現在の日本におけるハロウィンの「ゾンビ」はずいぶんといい加減なものである。

「人間とは何か。人間性とは何か」を高らかに謳いあげたゾンビを、社会への警鐘や風刺を無視した文脈の中で単なるお祭り騒ぎに使うのはいかがなものだろうか。ゾンビとはもっと厳粛で、静かで、重大なものでなければならない。チャラチャラするなとは言わないが、余りチャラチャラしすぎるのはゾンビの本質が摩耗するので危険だ。繁華街からの嬌声は私を暗鬱な気分にさせる。現在の浮ついた風潮には断固抗議したい。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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