コラム

ゾンビを冒涜する日本のハロウィンが笑えない理由──ハロウィン栄えて国亡ぶ2

2022年10月26日(水)11時58分

この週末には奴らが戻ってくる!?(渋谷、2016年10月30日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<ゾンビ映画の金字塔『死霊のえじき(Day of the Dead)』で描かれたゾンビは、「人間とは何か」を問うための深淵かつ厳粛な存在だった>

本サイト2020年10月末に『ハロウィンが栄えて国が滅ぶ理由』を寄稿した。

当時はコロナ禍が直撃しており、東京渋谷・六本木、大阪・心斎橋などでは目立ったハロウィン騒動は起こりづらかった。しかし2年が経ちコロナ禍もまずまず落ち着いてくるといった今年、またぞろハロウィンから不気味な蠢動が聞こえる。

ハロウィンは友達がいる人の特権である。ハロウィンの参加最小単位は2人である。孤独、無縁が進む昨今社会にあって、ハロウィンは万人に開かれたお祭りではない。孤立の人の影は騒動に照らされてますます色濃くなる。いったい誰が得をするイベントなのだろうか。

コスプレ・ゾンビは邪道

仮装にも注文を付けたい。近年のハロウィンではゾンビの格好をする人が増えた。とりわけナース(看護士)の格好が目立つ。これがいっこうに良く分からない。映画監督ジョージ・A・ロメロが1968年に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(Night of the Living Dead)』をお創りになったところから所謂『ゾンビ』は始まった。読んで字のごとくゾンビとは生ける屍であり、当初のゾンビは墓地から蘇ってくるので「腐敗した一般市民」である。確かにゾンビに嚙まれて負傷した民間人が病院に運ばれるや、そこでゾンビ化が起こり院内で感染が起こるというシーンがないわけではないが、基本的にゾンビのスタンダードは日常生活を送る一般市民の格好が適当であり、わざわざ看護士に仮装して血のりを付ける正当な理由はない。

ゾンビの原則とはロメロによって確立されたものである。それは1)ゾンビは健常者(生者)を捕食する、2)噛傷によって健常者に感染する、3)ゾンビは頭部(脳)を破壊されると死ぬ(機能停止)である。これを「ゾンビ三大原則」などと呼ぶ。これはロメロ以来、あらゆるゾンビ作品に適応される普遍原則であり、例外は無い。

尤も、1)でいうゾンビ発生のそもそもの理由は「未知のウイルス」とか「(人工)生物兵器」など理由は多岐にわたる。2)では、噛まれなくともゾンビの血液や体液が粘膜に入ることによって感染したり、胎児が母子感染する場合もある。3)は、逆説的にいうと手足を破壊されても機能停止しないことを意味する。基本的にゾンビは鈍足であるが、ダニー・ボイルが『28日後...(28 Days Later)』(2002年)で確立したように走り出すゾンビなどバリエーションはあるが、この三大原則は堅持されている。ハロウィンにおけるゾンビ仮装者は、自分がまずどの作品のゾンビに準拠しているのかの明確な自己認識が必要である。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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