コラム

招待制「クラブハウス」の高いハードルと陰キャの矜持

2021年02月10日(水)12時20分

国民皆ネット時代の問題は世代間ではなく、むしろ水平格差だ smartboy10-iStock

<招待してくれる友人がいない、iPhoneをもたない、会話も不得意な筆者にはハードルが高い。だがそんな対抗勢力も社会には必要だと思う>

クラブハウスが流行っていると聞いて、すわ私は怒髪天の怒りに打ち震えた。この非常時に、有産階級であるリア充が異性を求めて踊り狂う方のクラブ熱が再燃しているとあれば、これはコロナ感染リスクが著しく亢進する行為であり、けしからんことである。よって如何にこの流行を打ち打擲すべきかの検討を始めたものの、それは早合点であった。クラブハウスとは新手の音声交流に特化したSNSのことのようである。

なるほど、私は生粋の江戸っ子で流行りものには目が無い。というのは嘘で道産子であるが、何事も流行ものだといって嘲笑することなく試してみなければ始まらないのである。さっそく私もそのクラブハウスというものをやってみようとしたが、すぐに峨峨(がが)たる山脈のごとき障壁が立ちはだかるのだった。このクラブハウス、招待制という。

すわ私はゼロ年代に一世を風靡したSNS「ミクシィ」を思いだした。ミクシィも当初は厳格な招待制で、であるがゆえに密行性と希少性があって瞬く間に隆盛したサービスであった。しかし私がミクシィをやっていたのは20代前半である。すでに関ケ原の役における福島正則と同い年の老齢になっている私は、招待を受けるだけの友人を持たない。

私だけかもしれないが、加齢すればするほどどんどんと友人の数が減っていく。私は大学時代、合コンの席の自己紹介の折、「自公保連立(当時は、自民・公明・保守党)政権の是非」の大演説をぶち、爾来その手の会合に二度と呼ばれなくなった変人だが、それでも変人には変人なりに少なからず友人がいた。

だが、近親憎悪と言おうか、変人同士の邂逅は一瞬で終わり、すぐさま離別の時が来る。私に最も友人らしきものが増えたのは20代後半になって保守界隈に出入りするようになってからだ。一時、自宅に届いた年賀状は三百枚を超えた。保守色の強い国会議員や地方議員からも年賀が届き、私は有頂天になった。「憲法護って国滅ぶ」とか「打倒民主党政権」などと言っているだけで酒が進むから、友人らとの酒席では常に私が盛り上げ役になった。

しかし、これが帝国の絶頂であった。その後保守界隈の見識の狭隘さや差別性に幻滅した私は、次第に彼らと疎遠になり、いつのまにか彼らを保守とは見做せなくなり、遂には彼らの批判者になった。すると、友人たちは潮が引いたように去っていった。

現在、私の自宅に届く年賀状は十五枚程度で、LINEのやり取りは家族との業務連絡以外、ブルボンの新商品告知が時々あるだけである。酒はつねに独りでちびとやる。ドン・キホーテで深夜、独りでつまみ類(乾物)を物色するのが唯一の趣味になり、仕事以外で昼間外出するのは銀行での通帳記帳や洗車ぐらいのもの。コロナ禍で「不要不急の外出の自粛」「必要最少人数での外出」等が謳われているが、私の生活はコロナ禍で何も変わっていない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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