コラム

国葬強行による安倍元首相の神格化を許すな

2022年09月26日(月)16時54分

<過半数の反対を押し切って強行し、その場は「やって良かった」ことになった東京オリンピックもここへきて腐敗の構造が明らかになっているように、国葬で覆い隠そうとした疑惑もいずれ明らかになる>

9月27日、安倍元首相の「国葬議」が開催される。世論の過半数は依然として国葬に反対であり、筆者も繰り返しこのコラムで中止を訴えてきた。地方自治体や憲法学者などからも国葬の撤回を要求する声があがり、公共機関や教育機関が弔意を示さないことを敢えて表明するなど、異例の事態が続いている。しかし結局、政府が計画を変更することはなかった。

<筆者による関連記事>
安倍元首相の国葬に反対する
岸田政権は潔く国葬を撤回せよ

G7抜きの弔問外交

日がたつに連れて国葬反対派が増加しているのも不思議ではない。なぜなら、国葬を開催する意義が日に日に薄れているからだ。たとえば「弔問外交」だ。24日、カナダのトルドー首相が国葬への出席を直前で中止したことによって、G7の首脳は誰も来日しないことが明らかになった。国内外の弔問客は当初は6000人となっていたが、欠席者が続出するなどしておよそ4300人となる見込みである。

トルドー首相の欠席理由は、カナダに上陸したハリケーンによる被害への対応のためだという。災害対応という点でいえば、2週連続で日本列島を襲った台風14号と15号は日本各地に大きな被害をもたらしており、悠長に国葬を執り行うことについては疑問が持たれる。

さらに、国葬にあたって首都高に規制がかかるなど交通機関への影響も既に出ており、物流の面での経済損失も大きくなりそうだ。学校なども一部休校になったり、予定されていた行事を中止せざるを得なくなったりといった市民生活への影響も明らかになっている。

支持率さえ犠牲にした訳

国葬に関するネガティブな材料が続出する中でも、岸田政権は、「丁寧な説明」を行うとしながら、安倍元首相の国葬議について理解を得る行動は一切しなかった。

たとえば、与党は圧倒的多数派であり一部野党は国葬に賛成しているのだから、形式的に国会決議を経れば、国葬の正統性を主張することができた。また前回のコラムでも指摘したように、政府と自民党の合同葬というこれまでの慣例に従うのであれば、批判はこれほどまでに多くならなかったはずだ。

しかし岸田政権は、自身の政権支持率が下がっても、そのような妥協をすることはなかった。なぜだろうか。まず、以前このコラムでも指摘したように、次に国政選挙は3年後であり、多少支持率が下がろうと国民は選挙までに忘れるだろうという思考があるのだろう。それよりも怖いのは安倍元首相を崇拝しているような党内保守派や自民党のコアな支持層の反乱である。

たとえば生前の安倍晋三に近かったジャーナリストの有本香は、各種世論調査で国葬反対派が多数を占めている事実が明らかになっているにもかかわらず、「国葬反対派は極左暴力集団」と言ってはばからない。このような、もはや現実を直視することもできなくなった党内外のカルト的なグループに寄り添うほうが岸田政権にとっては得だったということなのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story