コラム

本性を現した岸田政権

2021年11月15日(月)14時17分
竹中平蔵

「デジタル田園都市国家構想実現会議」のメンバーにはこの人も(慶応大学名誉教授の竹中平蔵) Issei Kato- REUTERS

<コロナ「10万円給付」クーポン利用のからくりと新自由主義への復帰に見る、前と変わらない自民党>

総選挙が終わり、絶対安定多数を獲得した岸田政権は本格的な政権運営を始めることになった。早急に取り組むべき課題は新型コロナのエピデミックに伴う経済的苦境への対策であり、選挙中はそれを与党も野党も強く訴えていた。

野党は一人あたり10万円の再給付や消費税の時限的減税を主張していた。一方の与党も、具体性はなかったものの、一定の給付を示唆してはいた。しかし、いざ自民党と公明党が出してきた直接給付案は、18才以下に対して5万円の現金と5万円のクーポンを配るという、予想を下回る貧弱なものだった。

目的が分からない給付

この給付案が決まる過程では、自民党と公明党の間で何か交渉があったようだが、本来であればそんなことは選挙前に決めておくべきだったのだ。選挙後すぐ取り組むべき支援策すら決められずに選挙協力を行った両党は、まさしく「野合」であったという他はない。

ともかく、この両党の妥協の産物としての18才以下への給付案は、極めて中途半端なものであり、政策の目的もその効果も不明瞭だ。経済困窮者への支援であれば、とりあえずの現金がないことで危機を迎えている人は、子育て世帯以外にも多くいる。少子化対策としての子育て世帯への支援だと考えても、今回の給付は所得制限が行われる見込みであり、出産へのインセンティブを削いでいる。給付には所得制限はいらない。富裕層には所得税の増税や資産課税によって負担してもらえばよいだけの話なのだ。

また報道によれば、昨年の10万円給付と同様、今回の給付も手続き的には「世帯主」への給付となっている。そこに所得制限を設けたため、現時点では世帯年収が基準以上であっても世帯主年収が基準以下であれば給付されてしまうなどの不公正も生まれている。これを是正するためには、制度設計はより複雑になるだろう。

こうした制度の問題に加え、半分をクーポンにしたせいで、その分の5万円の給付は新春になるという。これでは緊急経済対策にはならないばかりか、5万円ずつ小出しにすることは、消費意欲の喚起による経済活性化にさえならないかもしれない。

クーポンという「愚策」

現在報道されているところによると、岸田政権は1人あたり5万円相当のクーポンを配布すると述べている。しかしそのクーポンが何に使えるかはまだ決まってはいない。つまり、あらゆる利権団体が、自分のところの商品をクーポンの対象に含めるためのロビー活動がここから始まる。現金であれば、そのような論争はおこらない。それぞれの与党議員が、自分が持つ利権にかけて、利益誘導を行おうとする。コロナ第六波が来る可能性が高まりつつある情勢で、この冬はクーポン対象を決める闘争に政治リソースが費やされることになる。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story