コラム

たとえ菅が辞めようと、臨時国会を開かない自民党には政権を任せられない

2021年09月03日(金)22時25分

従って、菅首相が述べたコロナ対応で忙しいから臨時国会は開けないというのは間違いで、コロナだからこそ、権力の暴走や悪用を防ぐために、行政府はより強く監視される必要があるのだ。菅首相がコロナ対応に専念するための総裁選不出馬ならば、なおさら臨時国会は開かれるべきだった。

ところで、日本は議員内閣制を採用している。議員内閣制では通常、議会の多数派の中から政府のトップが選ばれ、政府と与党が一体となって政権を担う。アメリカ大統領制のように、大統領の出身政党と議会の多数派政党が異なったり、一致している場合でも大統領と議会がそれぞれ独立の意志をもって行動したりするようなことはほとんどない。従って、議員内閣制では行政権と立法権の分離が形骸化してしまう危険性がある。

そこで重要なのが野党だ。野党が実質的に国会による政府与党のチェック機能を担う。さらに野党は、国内の少数意見も代表している。53条が、総議員の4分の1という比較的低いハードルになっているのも、政府と議会多数派が一体となって、立法府のチェック機能を嫌がり国家を開かないようにすることを排除するためだ。憲法は多数の独裁を許さない。この点でも、臨時国会を召集しない政権がいかに罪深いかが分かるだろう。

コロナは行政府と立法府が共同で対応すべき問題

刻々と変化するコロナ情勢に対して、国家は機動的な対応を迫られている。その対応については、立法措置や予算措置も含まれる。法律や予算について、唯一の権限を持つのが国会だ。従って、コロナについては行政府と立法府が協働するかたちでの政治が求められる。加藤官房長官は、コロナ予備費がまだ残っていることを国会を招集しない理由のひとつに挙げた。しかし、行政府が膨大な予算の使途を国会の同意なく自由に決定するのは、本来の立憲政治に反する。予備費を使う場合でも、出来るだけ国会の議論を介在させたほうが手続きとして望ましいのに加え、GoToキャンペーンのような愚策に貴重な予算が使われないための歯止めも必要だ。

さらに、現在の全国的なコロナ感染の拡大を止めるための対策を打ち出す必要がある。その際、過去2回の緊急事態宣言にみられる、感染者が十分に下がりきっていないのに行動制限を緩めたことにより、急激な感染爆発を招いたという反省が必要だ。今度こそ感染者数を限りなくゼロに近づけるため、強力なロックダウンを行わなければならないかもしれない。そうなれば、その補償のための補正予算が必要となる。国会を開かなければロックダウンをするかどうかすら議論できない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米下院、貧困や気候問題の支出削減法案 民主党反対 

ワールド

米FRB議長がコロナ感染、自宅から仕事継続

ビジネス

グローバル株ファンドに資金流入、米利下げ期待受け=

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story