コラム

東京五輪の「国際公約化」は日本政府の自作自演

2021年06月21日(月)10時11分
新型コロナ分科会の尾身茂会長

「五輪開催の有無」についての提言は取りやめた尾身会長(6月18日) Issei Kato-REUTERS

<科学的見地から五輪開催の可否を助言するはずの尾身・分科会会長までが、「国際公約」を盾に判断を回避>

6月11日から13日まで、イギリスのコーンウォールでG7サミットが開催され、日本からは菅義偉首相が出席した。昨年秋に就任した菅首相にとっては、これがサミット初参加だった。

国内では、菅首相のプレゼンスが話題になっていた。記念撮影などで首脳たちがまとまって動くとき、英語が喋れないこともあり、菅首相は周囲から孤立しているようにみえた。それが支持率に影響するとみたのか、日本のSNSでは、甘利元経産大臣が「総理は外交が苦手?そのイメージを吹き飛ばす鮮烈なデビューがG7でした。公正な国際秩序に向けG7が持つべき覚悟に消極的な1(ママ)部首脳に対し、相手の目を見据えて一喝する迫力に先方もタジタジ」とツイートするなど、強い印象操作も目立った。

オリンピックの「国際公約」化?

菅首相は全日程が終了した後、サミットで東京オリンピック開催への「支持」を取り付けたと語った。首相および日本の与党政治家やメディアは、これで東京オリンピックは「国際公約」となったので、開催中止はあり得なくなったと論じている。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長はこれを受けて、提言にオリンピック中止を盛り込むことを取り下げたと述べた。

しかし、果たしてオリンピックは「国際公約」となったのだろうか。日本以外のメディアの扱いを見てみよう。たとえば筆者がG7に関するドイツのニュースを調べてみたところ、オリンピックが「国際公約」となったことどころか、オリンピックがG7で扱われていたことすらほとんどニュースになっていなかった。菅首相の扱いも、コーンウォールにほぼいないも同然であった。

ドイツ国際公共放送は、G7の主要な話題は「中国、気候変動、コロナ」であったと指摘している(6月11日)。オリンピックは話されるべき話題だと扱われてはいなかったのだ。オリンピックへのG7の「支持表明」とされる首脳声明では、オリンピックが扱われたのは最後の2、3行であり、いかにも日本政府によって捻じ込まれたような文言になっている。

「また、新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する。」

「国際公約」の国内政治利用

第二次安倍政権は、その在任期間に二度の消費税増税を行った。そのいずれも国内消費に多大な影響を引き起こし、景気後退を招いた。一度目の増税時に、民主党政権がつくった、景気に問題がある場合は消費税増税を見送るとするいわゆる「景気条項」を外し、災害が頻発するなどして景気が減速した2019年、二度目の増税を強行した。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story