コラム

「人類のサバイバルに寄与する」、イーロン・マスクが描く破壊的フィジカルバリューチェーン

2021年06月18日(金)17時00分

イーロン・マスクの生態系に組み込まれることも日本企業の選択肢

日本の自動車産業の裾野は広大だ。下請けモデルのエコシステムは改善に改善を重ねて性能向上とコスト削減するモデルの中ではとても強力だ。下請け企業も長期の安定的な契約関係の中でコスト削減に協力するし、自社の部品の改良に汗水垂らしてくれる。

しかし、生態系全体の連帯感が強固であればあるほど急速なイノベーションには弱い。トヨタも前回のコラムで書いたようにウーブンシティという新しい実験の街を作り新しいモビリティイノベーションへの挑戦はしている。しかし、足下ではトラック系への資本参加で自動車業界が直面するCASE対応に向けた標準化をすすめたり、水素エンジン社を開発して少しでも今までのエンジンの技術を活かし、エンジンに関わる膨大な下請け生態系を守り既存の強みを活かす動きも同時に活発だ。

イーロン・マスクのゼロベースでいきなり全体最適を考えるようなエコシステムはオセロのようにたちまちビジネスルールをひっくり返すような破壊的イノベーションの可能性を持っている。超長期戦略の視点で考えればバックキャストでの打ち手とフォアキャストでの打ち手と同時平行で進めるしかないのだろうが、当然イーロン・マスクの生態系に組み込まれることも日本企業の戦略の選択肢としてはある。先日はGAFAの一角であるAppleのEVカーの製造を日本の自動車会社が受けるかも知れないという報道もあった。超長期戦略としてのバックキャストからの布石を打つ決断は意外と目の前に来ているのかもしれない。

(本稿は藤元健太郎とD4DRのシンクタンクFPRCの上席研究員坂野泰士の共著です)

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story