コラム

「記者クラブ閉め出し騒動」に見る民主党のお粗末な情報管理

2009年09月17日(木)18時01分

 民主党政権が成立した16日、ネット上の話題を独占したのは、年金問題でも財源問題でもなく、鳩山首相が「会見を記者クラブ以外のジャーナリストにも開放する」という約束を破って、フリージャーナリストを締め出した事件だった。たとえば本稿を書いている17日午後の段階で、「はてなブックマーク」の人気エントリーで、民主党に関する8本の記事は、すべてこの「約束違反」に関するものだ。

 もともと民主党は、定例会見を記者クラブ以外のジャーナリストにも開放してきた。鳩山由紀夫氏も、選挙前の記者会見でフリージャーナリストの上杉隆氏に「私が政権を取って官邸に入った場合、上杉さんにもオープンでございますので、どうぞお入りいただきたい」と答えている。ところがインターネット報道協会が首相官邸や民主党に送った出席要望書に回答はなく、首相会見には海外メディアの記者10人程度と雑誌記者5人の参加だけが許可された。

 当初は「鳩山氏は嘘つきだ」と批判が盛り上がり、大手新聞社の経営者が民主党を脅したとか、平野博文官房長官が開放を妨害したといった説も流れたが、問題はそう単純ではないようだ。日経ビジネスによれば、日本雑誌記者会の事務局長を務める渡辺桂志氏は、首相会見の当日になって内閣官房内閣広報室から「今回は5人の記者にお入りいただこうと思っています」という電話を受けたという。この内閣広報室の「割り当て」については、鳩山氏はもちろん、平野博文官房長官も知らなかったようだ。

 まだ真相はわからないが、この顛末は先日も紹介したNYタイムズ論文事件と似てはいないだろうか。政権交代直後の首相の就任会見というのは、おそらく日本の歴史に残る出来事だ。それがどう伝えられるかについて首相も官房長官も何も知らず、当日の朝になって官僚が取材する側に通知するというのは、メディア対策について民主党がいかにお粗末な認識しかもっていないかを示している。

 結果的に「記者クラブの既得権を守りネットメディアを排除する鳩山政権」というイメージが広がってしまったダメージは小さくない。今の若い世代は、新聞は3割も取っていないし、テレビも半分ぐらいしか見ていない。彼らの情報源は、圧倒的にケータイとウェブなのだ。メディアが多様化した時代に幅広い国民の支持を得るには、官房長官が片手間で情報管理をやるのではなく、専門の「報道官」を官邸にも設け、メディア・リテラシーの高い政治家がメディア対策を行なう必要があるのではないか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story