コラム

自民党総裁選を韓国はどのように見ているか

2020年09月11日(金)14時30分

韓国メディアでは安倍総理の辞任発表の前から石破氏についての好意的な報道が続いていた...... Yoshikazu Tsuno/REUTERS

<韓国マスコミによる報道の興味深い点は菅氏についての肯定的な話を伝える報道が殆どないということだ。その理由は......>

なぜか厳しい菅氏への評価

安倍総理の辞任発表直後から韓国の最大の関心事はポスト安倍についてだ。だが、自民党内の主要派閥が菅氏支持という事実が伝わり、よっぽどの異変でも起きない限り次期首相が菅氏で確定だと見られるようになると、ポスト安倍に対する関心は唐突に消え去ってしまった。

その後も、菅氏がどんな人物かについての情報が報道されたりはしたが、さほど大きな関心事にはならず、韓国国民の興味をひくこともなくなった。菅氏が早々にアベノミクス継承の方針を明言するなど、主要政策において安倍総理の方針と同じ考えであると評価したためだ。対韓政策についても、前任者よりも強硬姿勢であるとか、あるいはより宥和的であるというのであれば、韓国国民の関心をかったかもしれないが、同じ方針を踏襲するというのでは新鮮さや刺激に欠ける。

韓国マスコミによる報道の興味深い点は菅氏についての肯定的な話を伝える報道が殆どないということだ。実のところ、菅氏の経歴、つまり、集団就職を経て、アルバイトしながら大学に通い、政界に入門、下積み生活を経た苦労人がついには一国の指導者である総理の座に就く......、これはいかにも韓国人たちが好むストーリーだ。民主化以降、歴代の韓国大統領たちの経歴をみてもそうだ。韓国人たちは名家に生まれ、名門校を経て高い地位にたどり着いた、いわゆるエリートよりも貧しい家に生まれ苦労の末に成功した人物、もしくはドラマティックな人生を歩んできた人物を大統領として選んできた。

金泳三や金大中は軍事政権時代、野党議員を務め、自宅軟禁、政治活動制限などの弾圧を何度も受けてきた。盧武鉉は高校卒業後、独学司法試験に合格したという努力の人だ。朴槿恵は若くして両親を暗殺により失った悲劇のヒロイン。文大統領は、学生運動に参加したことで警察に拘束され、留置所で司法試験合格の一報を聞いたという、いずれも波瀾万丈のストーリーを持つ人物たちだ。

一方で彼らのライバルたちに目を向けてみると、検事の息子で名門校を経て大法官(日本でいう最高裁判事)を務めていた李会昌 (大統領選で金大中、盧武鉉に敗退)、現代財閥の息子でFIFA副会長も歴任した鄭夢準(盧武鉉に単一候補を決定するための予備選挙で敗退)らが挙げられる。二人とも輝かしい経歴と業績を併せ持った人物であるにも関わらず、僅差で敗退している。最終的に韓国人たちの心に強く訴えかけるのはドラマティックな人生ストーリーの持ち主たちだということだ。

この韓国人たちの「好み」を考えれば、自民党総裁候補の中で最も注目される人物は菅氏に他ならない。だが、韓国マスコミは菅氏の「苦労」を紹介するよりも「第二の安倍」という点にばかりフォーカスをあて報道している。もちろんそれは菅氏が安倍総理の政策を継承すると表明したからだ。仮に菅氏が安倍政権の主要政策を見直し、柔軟な対韓、対北朝鮮政策を目指すとでも表明していたなら、おそらく、韓国メディアが現在、彼について報道する際に掲載している険しい表情ばかりの写真は、もっと笑顔で温厚なイメージの写真に変わっていただろう。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ平和サミット開幕、共同宣言草案でロシアの

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story