コラム

バレンタインに知っておきたい、チョコレートの甘くない歴史とトリビア

2023年02月07日(火)11時30分

さらに気になる結果は、銘柄によってはカドミウムやニッケルの含有量が高かったことです。カドミウムは少量でも毒性の強い物質で、体内に残留しやすく、腎機能障害や関節痛などの原因になります。発がん性も認められています。日本人の食品からの1日摂取量は、約20マイクログラムです。この時の調査でハイカカオチョコレートから検出されたカドミウムは、100グラムあたり5~39マイクログラムでした。

ニッケルは金属アレルギーの原因物質として多くの症例があります。ハイカカオチョコレートでは普通のチョコレートと比べて、1.8~3.8倍多く検出されました。

ダークチョコの重金属含有量削減を米誌がメーカー4社に勧告

今回、イギリスの国際通信社ロイターは、米有力専門誌「コンシューマー・リポート」がハーシー、モンデリーズ・インターナショナル、テオチョコレート、トレーダージョーズのチョコレート製造会社4社に対して、『今年のバレンタインデーまでに、ダークチョコレート(カカオ含有率40%以上のチョコ)製品における鉛とカドミウムの含有量を減らすよう勧告した』と報じました。

コンシューマー・リポートは、「ダークチョコレート28種を試験したところ、23種で鉛とカドミウムの両方もしくはどちらかが検出され、1日1オンス(約28.3グラム)以上チョコを食べる人にとって、腎障害、免疫障害、神経障害などの有害な影響を及ぼしかねない量に達していた。特に、妊娠している女性や小さな子どもは危険がより大きい」と主張し、勧告には約55000人の嘆願署名も添えられました。

チョコレートから検出される重金属は、カカオの木が生育する土壌から汚染します。カカオ豆をより多く使用するハイカカオチョコレートは、汚染の可能性も高くなります。味の良いカカオが取れるアンデス山脈周辺の土壌は、特にカドミウムの濃度が高いため、今後は長期的な土壌改良や、カカオの品種改良が必要と考えられています。

国際的な食品基準を定めるコーデックス委員会は、チョコレートに対してカカオ含有量に応じたカドミウムの国際基準量(カカオ70%以上では1キロあたり0.9ミリグラム)を定めており、さらに許容量を下げる動きがあります。米カリフォルニア州環境保護庁有害物質管理局の基準値はさらに厳しく、1日の経口摂取の最大許容量は体重58キロを基準として4.1マイクログラムとしています。

最近のチョコレートは、カカオ成分の効果だけでなく、GABAや乳酸菌なども加えた機能性食品としての役割も注目を浴びています。好きな人は毎日でも食べるでしょう。現地の農園の人々の生活を守るためにもクラウドファンディングなどで土壌改良が加速してほしいですね。

20240625issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月25日号(6月18日発売)は「サウジの矜持」特集。脱石油を目指す中東の王国――。米中ロを手玉に取るサウジアラビアが描く「次の世界」とは?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、物価目標達成に自信 債券市場の混乱は無秩序

ワールド

中国、EU産豚肉の反ダンピング調査開始 貿易摩擦激

ワールド

イスラエル首相、戦時内閣を解散

ワールド

プーチン氏、19日からベトナム訪問 武器や決済など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 4

    顔も服も「若かりし頃のマドンナ」そのもの...マドン…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 7

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 8

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 9

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 10

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story