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ゲーム史の追憶番組『ハイスコア:ゲーム黄金時代』が残念な理由

An “Easy Mode” Documentary

2020年09月10日(木)16時45分
ベンジャミン・フリシュ

『ファイナルファンタジー』のクリエーターたちが、堀井雄二の『ドラゴンクエスト』シリーズが作り出した「型」に沿ってゲームを作ったことも語られない。また『ドラゴンクエスト』という作品自体、80年代初頭に堀井がサンフランシスコで『ウィザードリィ』に出合ったことから直接、影響を受けていることにも触れられていない。

こうした国境を超えた複雑な影響の連鎖を取り上げていれば、『ハイスコア』はもっと正確で豊かなドキュメンタリーたり得たはずだ。

人物を中心に据えた作品作りのルーツは、制作会社のグレート・ビッグ・ストーリーの成り立ちにあると言っていい。同社はCNN系のインターネット専門番組制作会社として、YouTube向けの(つまり広告と相性のいい)短編ドキュメンタリーを作ることを目的に設立された。短く、パンチが効いておしゃれで、視聴者に満足感を与える作品を世に送り出してきた。

共同創業者のクリス・ベレンドに言わせれば同社は「基本的に楽天的だが無邪気でもない」作品づくりを目指しているらしい。だが、もともと短編向けのこのアプローチを1話40分越で全6話のシリーズに適用すると、楽天的な部分で単純で安易に見えてくる。

もっと上を目指せたはず

この番組はゲームの草創期を視聴者に追体験させようという意図で作られている。だからアタリのゲーム機をクリスマスにもらった喜びとか、90年代の任天堂とセガのライバル関係とか、格闘ゲームの暴力描写をめぐる議論なども取り上げられる。だがいずれも大人のゲームファンなら覚えているはずの話。もっと新しい発見が欲しかった。

最も出来がいいのはゲームの開発中の様子を描いている部分だ。第1話で、『スぺースインべーダー』を手掛けた西角友宏のデザイン帳(あの有名なエイリアンの原形となったスケッチが描かれている)が映し出されるシーン。最終話で一人称視点のシューテイングゲーム『ドゥーム』の開発の歴史が、3Dゲーム黎明期の物語と並行して語られるところ......。

かつてのゲーム作品がどんなふうに作られ、消費されてきたかに焦点が当てられる一方で、現代はどうかといった言及はほとんどない。そこに目を向けていれば避けられなかっただろう厳しい問いも回避している。

この制作会社ならではのお気楽な番組作りは、裏を返せばビデオゲームの起源やシリコンバレーにおける労働者の扱い(現代のゲーム業界のブラックな労働慣行につながる問題だ)といったテーマを掘り下げる気がないことを意味する。そもそもノスタルジーを描くつもりの番組に、調査報道的なものを求めるのは期待し過ぎなのかもしれない。それでも、これだけの予算やネタがあったなら、もっと上を目指してもよかったのではないだろうか。

ゲームをプレーするのが楽しいように、『ハイスコア』は見ていて楽しい番組だ。ただし、難易度設定が「イージー」なのが惜しまれる。


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