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時代を象徴する「アジア系アメリカ人」の親たちの物語

The Complicated Cost of the American Dream

2020年05月20日(水)20時00分
クリスティーナ・チャオ

作中の世界は乗り越えるべきトラブルの連続としてではなく、学ぶべき経験の連続として描かれる。その教訓は、私たちを育ててくれた人々の実体験だからこそ理解される。そこにあるのは人間を、苦難の意味を、そして移民1世と2世の間の距離を縮めることの意味を信じる気持ちだ。

(1世と2世の関係は)『対面通行』だという点も訴えたかった」とヤンは言う。「私は自分の両親との間でもそれを心掛けている。なぜ両親が自らの経験を語ろうとしないときがあるのか、その理由も理解しようとしている」

本作では中国語と台湾語、英語が交錯する。アジア系アメリカ人の視聴者が自らのアイデンティティーを見つけるきっかけになることを期待しているのだ。欧米で育った多くのアジア系の子供と同様に、ヤンも自分の一部を隠して地元に同化しようとしていた。

「アジア系の子供が多い土地ではなかったし、誰だって悪目立ちはしたくはない」と彼は言う。自分探しの旅が始まったのは30歳を過ぎてからだ。「今も継続中のプロセスだ。中国語の勉強も始めた」

父親世代に光を当てる

作品を一貫して彩るのは、年老いたピンルイのストイックな後悔を通して描かれる内省と静けさだ。本作ではこれまで欧米の娯楽作品ではほとんど扱われてこなかったアジア系の父親たちの物語、そしてアメリカンドリームと引き換えに彼らが支払ってきた代償に光が当てられる。

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若き日のピンルイ(右)は恋人とは別の女性と結婚してアメリカに渡る決断をする

娯楽作品におけるアジア系アメリカ人の扱われ方は、18年にジョン・M・チュウ監督の映画『クレイジー・リッチ!』が世界的ヒットとなったのがきっかけで変化した。世界で2億3900万ドルの興行成績を上げ、多様性を追求した作品は客を呼べるとの見 方が広がったのだ。

『クレイジー・リッチ!』が公開された頃、ヤンはこの映画の脚本を書いていた。その後も業界の状況は変わっていった。韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞を受賞し、『フェアウェル』で中国系女性を演じたオークワフィナがゴールデングローブ賞の主演女優賞を取った。

「3年前とは全く状況が変わった。せりふの多くが台湾語で大スターが出演するわけでもない映画を初監督作にしようなんて、当時はばかげた選択だと思われていたのに」とヤンは言う。

ほんの5年前には、ヤンはアジア系では絶対に企画が通らないと考えて、白人の父と息子を描くドラマの企画を進めていた。ところが今や、白人の脚本家がアジア系を主人公にした脚本を送ってくる。そのほうが売れると思っているからだ。

アジア系アメリカ人を描いた作品は今後、増えていくとヤンは考えている。「(そのためには)ジャスティン・リンやジョン・M・チュウといった監督たちに、継続的に作品を生み出してもらわなければ。一時的なブームではないことを切に祈っている」とヤンは言う。「必要なのは粘り強く前に進み続けることだ。自分もその一端を担えれば」


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