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雪道もノープロブレム! ハイジの村発「ベビーカー用ミニスキー」

2019年11月29日(金)16時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

車いす用に作って、ベビーカー用に応用

「ホイールブレーズXL」を開発したのは、パトリック・マイヤーさんだ。マイヤーさんは、プロのスノーボーダーだった。約20年前、試合中に事故に遭い、以来、車椅子での生活を基本とし、頑丈な杖(同社第3の製品セーフティーフット装着)を使って歩行もしている。

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車椅子用のホイールブレーズS

大自然にふれることが日常のことだったマイヤーさんは、車椅子でも自然の中に入って行きたいと思った。スイスは車椅子の人も暮らしやすい町作りになっている。とはいえ、冬の好天の日、雪が積もった自然の中の散歩は健常者と同じようにはいかない。車椅子で雪上を進むのは、やはり、なかなかスムースにいかない。

「週末、雪があるところに出かけて、誰かに車椅子を押してもらうのは嫌でした。自分で動きたかったのです。雪に前輪が食い込んでしまって進めないのを、どうにかしたいと思いました」

そこで、ミニスキーを前輪につければいい、と思いついたという。「市場には、そういう補助具がありませんでした。とにかく私にとっての問題を解決したい、またミニスキーを作れば、ほかの車椅子使用者にも使ってもらえると思い、必死でした」と、マイヤーさんは振り返る。そして、専門家たちとの共同で何年もかけて出来上がったのが、XLより小さくレバーがシルバー色の車椅子用「ホイールブレーズS」(約2万5000円)だ。

Sを販売し始めてすぐ、たくさんの親たちから「ベビーカー用にも、ぜひ作ってほしい」という声がマイヤーさんに届いた。そこで大きめの車輪用のXLも作って販売したところ、S以上に大きな反響があった。いまも車いす用Sよりベビーカー用XLのほうが売れている。現在、XLの売り上げは当初の5倍にも増えた。

ニッチ商品の好例

ホイールブレーズXLは、ニッチ商品(ニーズが小規模な商品)だ。世の中にベビーカーを使う人はたくさんいるが、わざわざ、雪道の中をベビーカーで買い物に出かけたり、雪野原をベビーカーで散歩したりする人は、おそらくあまりいない。でも、雪上でもベビーカーを使いたい人は潜在的にいるはずだ。その人たちをターゲットにして、品質にこだわった商品を作ってみたら着実に人気を集めてきた。

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開発者のパトリック・マイヤーさん。子供が生まれて、家族でも「ホイールブレーズXL」を使うようになった

西洋では、アメリカ、カナダ、オーストラリア、西ヨーロッパ、そして中東ヨーロッパ(ポーランド、チェコ、ルーマニア、ウクライナ)にディストリビューターがいる。「当然ですが、雪のある場所に住む方たちが購入しています。また、普段は雪がなくても、休暇で雪山へ行く家族たちにも買っていただいていますね」。

今後、どこまで人気は広まっていくだろうか。

【参考記事】「日本のハイジ」を通しスイスという国が受容されている──スイス国立博物館のハイジ展の本気度


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岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」理事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com


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