最新記事

カルチャー

ハリウッド女優たちの悲劇は死後も続く──伝記映画でも本質にはノータッチ

A Myopic Close-up

2019年11月01日(金)17時30分
インクー・カン(カルチャーライター)

『オズの魔法使』のドロシー役で獲得したアカデミー子役賞のトロフィーは競売に(1993年12月)PeterMorgan-REUTERS

<一世を風靡した女優を描く新作『ジュディ』も不幸な晩年に固執して本質的な問題を置き去りに>

9月に全米公開された伝記映画『ジュディ』は、ジュディ・ガーランドの生涯、というより死がテーマだ。1968年、46歳になり、無一文で薬漬けですっかりおちぶれたかつての名女優ガーランドが、最後にロンド ンでもうひと花咲かせようとコンサートに臨む。その姿を、アカデミー賞狙いのレニー・ゼルウィガーが熱演した。

住み慣れた土地から8000キロ以上離れても、人気子役時代の記憶と影響はガーランドに付きまとう(それを象徴するように、ドロシー役で人気を博した『オズの魔法使』撮影中のMGMのルイス・B・メイヤー社長との関わりがたびたびフラッシュバックする)。緊張で体が動かなくなったり、不安に押しつぶされそうになったり......。ありがちな場面を見ながら、ふと思った。私たちはなぜ、美しい女優が壊れていく姿にこれほど興味を引かれるのか。

生前最後のコンサートからわずか半年後にガーランドが死去したことは、ラストまで伏せられているものの、この作品は彼女の早過ぎる死に全面的に依存している。それ抜きでは、この恐ろしく空虚な映画は存在し得ないだろう。

【参考記事】女性の価値って? 性別だけで人生を過小評価される苦しみ

ハリウッドスターの悲劇を安っぽいメロドラマに仕立てた作品はほかにもある。30歳を過ぎて徐々に壊れていくマリリン・モンローをミシェル・ウィリアムズが演じた『マリリン7日間の恋』(2011年)。死期の迫った往年の大女優グロリア・グレアムをアネット・べニングが 演じた『リヴァプール、最後の恋』(17年)。いずれも賞狙いの悪趣味なミニジャンルの象徴で、新鮮な洞察ではなく陳腐なアイロニーにしがみついていた。

この手の映画が作られ続ける理由は明らかだ。9月にコロラド州のテルライド映画祭で『ジュディ』がプレミア上映されると、ゼルウィガーはアカデミー賞主演女優賞の最有力候補に躍り出た。『ブリジット・ジョー ンズの日記』で一躍スターになった彼女自身、6年ほど映画界から遠ざかっていた時期があるだけに、ガーランドの挫折との対比が一層際立った。

モンロー役のウィリアムズはモンローのイメージに誘惑的で悪女っぽい魅力を付け加え、ゴールデングローブ賞を受賞、アカデミー賞候補にもなった。ベニングもコケティッシュで気性の激しいオスカー女優の姿を熱演し、じっと見つめられたら鋼鉄でも溶けそうなまなざしだけが取りえではないことを証明してみせた。

要するに、若い頃のように注目されたり、演じがいのある役を獲得するのが難しくなった女優でも、老いていく別の女優の役ならまだいける、というわけだ(自分はそういう女優たちとは違うと証明できる、という皮肉な見方もあるかもしれない)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米指標やFRB高官発言受け

ビジネス

ネットフリックス、第1四半期加入者が大幅増 売上高

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標と企業決算に注目

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE
今、あなたにオススメ

RANKING

  • 1

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 2

    ロックンロールの帝王を捨てた女性の物語、映画『プ…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    キャサリン妃とメーガン妃の「本当の仲」はどうだっ…

  • 5

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 1

    キャサリン妃とメーガン妃の「本当の仲」はどうだっ…

  • 2

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 3

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 4

    「テニスボール貫通ピンヒール」の衝撃...ゼンデイヤ…

  • 5

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 1

    キャサリン妃とウィリアム皇太子の「ご友人」...ロー…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    メーガン妃は「努力を感じさせない魅力がお見事」とS…

  • 4

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 5

    キャサリン妃とメーガン妃の「本当の仲」はどうだっ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:老人極貧社会 韓国

特集:老人極貧社会 韓国

2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる