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キアヌ・リーブスの輝きがあせない理由

Watching Keanu for 30 Years

2019年07月24日(水)17時35分
アンジェリカ・ジェイド・バスティエン

「思っていたとおりだ、いい匂いがする」

こんなセリフをさらりと言えるのは、リーブスだけだ。

60年代以降、ハリウッドにとって女性は成長市場ではなくなり、男性俳優はロマンスや欲望を掘り下げた演技にほとんど興味を示さなくなった。

その中で、リーブスが演じる恋愛は、観客に新たな親近感を覚えさせる。柔軟で傷つきやすい男らしさの演技は、ほかの有力俳優と一線を画す。

親近感は、リーブスが長く愛されている理由であり、映画らしい官能主義者たるゆえんでもある。映画評論家のマット・ゾラー・サイツは09年に、官能的な映画監督は「人生の瞬間を捉え、私たちの記憶のとおりに経験を再現する詩的な才能に恵まれている」と述べている。

これは演技にも当てはまる。映画俳優にとって官能的な演技とは、物語に味わいと複雑さを加えつつ、その瞬間に身を任せ、人間の体を強く意識することでもある。

映画を見る私たちにとって、体は心と同じくらい重要な意味を持つ。リーブスがそれを理解していることは、『恋愛適齢期』の首筋への柔らかいキスを見れば分かる。

【参考記事】存在理由はないが秀作の『トイ・ストーリー4』 新旧おもちゃたちが問いかける人生の意味

人種を感じさせる演技

もっとも、彼が体で心を演じる真骨頂は、アクション俳優としての作品だ。シリーズ第3作の『ジョン・ウィック:パラベラム』(日本公開は10月)で、リーブス演じるジョン・ウィックは、1回の発砲のために銃を丁寧に分解して組み立て直す。

ジョンが伝説の殺し屋だったことを物語る場面だが、同時に日常から切り離されていることを痛感させる。つかの間の平穏な生活から残忍な世界に舞い戻ったが、犬との日常に奇妙な共感を覚える。ストーリーのためにキャラクター描写を犠牲にしがちなアクション映画に欠けている、人間らしさがちりばめられた演技だ。

リーブスの魅力が色あせない理由がもう1つある。ライターのウィル・ハリスは「混血のスパーマン:キアヌ、オバマ、多文化の経験」と題したエッセーで、06年の『スキャナー・ダークリー』にリーブスの俳優としてのキャリアが凝縮されていると指摘している。

「混血であるということは、矛盾した存在として生きるということだ。人種とは、純潔さと単一性に依存する幻想だ」

「近未来の監視社会を舞台とする『スキャナー・ダークリー』で、キアヌ演じる麻薬捜査官ボブ・アークターは覆面捜査を命じられる。(コンピューター制御で)150万種類の人間に扮することができる『スクランブル・スーツ』を着たアークターは、男性、女性、白人、黒人、ラテン系とめまぐるしく姿を変え、同僚の捜査官さえ彼が誰なのか分からない」

リーブスは、ハリウッドでは基本的に白人と見なされ、有色人種としては珍しく変化に富んだキャリアを歩んできた(彼の父はハワイ出身のアメリカ人、母はイギリス人、父方の祖母は中国系の血を引く)。

ただし、映画ファンの大半は、彼の顔を複数の人種が結び付いたものと捉えてきた。そして、アメリカ社会のアジア系カップルの恋愛を描いた『いつかはマイ・ベイビー』へのカメオ出演は、彼のキャリアの重要な転機となった。誰もが知っていながら口にしなかったことが、初めて明らかになったかのように。

30年間スポットライトを浴びてきたキアヌ・リーブスは、今も私たちを驚かせてくれる。


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[2019年7月23日号掲載]

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