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ヒラリー・クリントン

「人をイラつかせる何か」を持つヒラリー 22年も嫌われ続けるその理由

2019年01月25日(金)17時30分
ミシェル・ゴールドバーグ(ジャーナリスト)

だが今、「ご立派過ぎ」という理由でヒラリーを敬遠する人はほぼいない。ヒラリーのことを嫌いだと認める人のほとんどは、彼女を「欲得ずくの冷笑家」だと断言する。それはトランプ支持者も一般の民主党支持者も、2年前にヒラリーと民主党大統領候補の座を争ったバーニー・サンダース上院議員の支持者も変わらない。

永遠の墓穴「クッキー発言」

22年前のヒラリーは独善的な理想主義者だったが、大統領選では腐敗した富裕層の手先だった。かつては頑固で柔軟性がなかったが、 民主党の大統領候補になってからはコロコロ立場を変え過ぎた。調査会社モーニングコンサルトの2年前の調査では、回答者の84%がヒラリーは「政治的な都合のために主張を変える」と考えており、82%が「腐敗している」と評していた。

22年前と変わらないのは、「ヒラリーは嫌われ者」という事実だけだ。

シカゴ郊外に住む会計士のブライアン・グリーンは、いわゆる浮動層に属する。90年代は共和党支持者で、民主党のクリントン夫妻のことは大嫌いだった。当時のヒラリーは「高慢に見えた」という。「ビルからカリスマをなくした感じ」だと思った。

イラク戦争で共和党に幻滅したグリーンは、04年の大統領選では民主党候補を支持。今はリバタリアン(自由至上主義)的なリベラルを自称する。だが政治的立場は変わっても、ヒラリーに対する嫌悪感は変わらなかった。

「ヒラリーは何でも用意周到で、ロボットみたいに血が通っていない印象を受ける」と、大統領選を控えた2年前、グリーンは語った。「最近左寄りの発言が増えたのは、サンダースの人気を意識したもので、彼女の本音ではないと思う」。グリーンの政治的立場はヒラリーに近いのだが、どちらかというとエリザベス・ウォーレン上院議員のほうが好きだと言う。

「本当に重要なのは政策や実績だと分かっているが、私にとって最大の判断材料は、『これから8年間あるいは4年間、この顔をテレビで見たいか』だ」とグリーンは告白した。「よくも悪くも、大統領はアメリカを代表する人物。国民の生活の一部になるんだ」

もちろん、ヒラリーの経歴や政策綱領を重視する人もいる。ワシントン在住の市場調査員マーセラ・アバーディンは、パレスチナ人とアメリカ人のハーフだ。それだけにヒラリーのタカ派的な姿勢と、イスラエルにごまをするような態度が不安で仕方がなかった。「ヒラリーは誠実なふりをしているだけで、堂々と嘘をつく」

だが、こうした政策重視派は少数派で、ヒラリー嫌いを認める人の多くは「あのキャラクターが嫌」と声をそろえる。ロサンゼルス在住のソングライター、マーゴ・ガリアン・ロズナーは、「私はヒラリーという人間が嫌い」と言い切る。

92年の大統領選で、夫ビルと全米の舞台に出てきた時からそうだった。決定的に嫌いになったのは、あの有名な「クッキー発言」がきっかけだ。

民主党大統領候補のテレビ討論会で、ビルの政治活動とヒラリーの法律事務所の癒着が指摘された翌日、この問題についてコメントしたヒラリーは、つい口を滑らせた。「そりゃ家庭に入って、クッキーでも焼いて、お茶を飲んでいることもできたけど、私は自分の職業を全うすることにした」と、いかにも上から目線で言い放ったのだ。あの瞬間、ヒラリーが全米の主婦を敵に回したのは間違いない。

「あれにはイラっときた」と、ロズナーは振り返る。「普通の女性たちに対する侮辱だ。働きに出ずに子育てに専念し、クッキーを焼いている人たちをバカにした」。彼女もヒラリーと同じキャリアウーマンだが、「すごく頭が悪いコメントだと思った」と冷たい。「みんなヒラリーのことを優秀な女性だと言うし、実際そう見えるけど、本当はそんなに賢くないと思う」

進歩主義的なロズナーは、ヒラリーの唱える政策にも疑問があった。「イラク戦争を支持したことが気に入らない」と、ロズナーは言う。「同性婚だって、こんなに話題になるまでは支持していなかった。大手金融機関から多額の政治献金をもらっていたし、国民皆保険も支持していなかった」

(大統領選の民主党候補がヒラリーでなく)ジョー・バイデン前副大統領だったら喜んで支持したとも、ロズナーは語る。ちなみにバイデンは上院でイラク戦争に賛成票を投じ、クレジットカード業界との親密な関係で知られ、当初は国民皆保険を支持していなかった。「バイデンの政治的な立場には賛成できないものもあるが、彼の人間性が私の心に響く」と、ロズナーは言う。

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