虚栄心の塊ではなく芸術的――オバマ夫妻の肖像画はこう違う
A Milestone in Black Portraiture
オバマの持つオーラやミシェルのクールさが見事に表現されている KEHINDE WILEY FOR THE NATIONAL PORTRAIT GALLERY
<クールな前大統領を気鋭の黒人アーティストが描く 公式ポートレートが醸し出す「スタイル」と芸術的・政治的意義>
キャンバスの中のバラク・オバマ前米大統領夫妻は優雅に流れる光と色を身にまとい、彼らが主だったときのホワイトハウスの雰囲気を思わせる。
2月12日にスミソニアン協会のナショナル・ポートレート・ギャラリー(ワシントン)で披露された夫妻の肖像画は、さまざまな理由で異彩を放っている。特に注目すべきは、歴代大統領の肖像画として初めて黒人画家が指名されたこと。オバマをケヒンデ・ワイリーが、前ファーストレディーのミシェルをエイミー・シェラルドが描いている。
この肖像画の芸術的および政治的な文脈について、黒人肖像画の歴史に詳しい米デューク大学のリチャード・J・パウエル教授(美術・美術史)にスレート誌のレイチェル・ハンプトンが聞いた。
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――オバマ夫妻の肖像画と、彼らが選んだ画家についてどう思うか。
実際に見て驚いた。典型的な肖像画よりも芸術的だったからだ。ナショナル・ポートレート・ギャラリーに並んでいる有名人の肖像画の多くは、虚栄心をそのまま写している。手掛けた画家たちは、そっくりの肖像を描くことはできるが、深遠な芸術的主張を感じさせる表現には至っていない。今回の作品は肖像画としてだけでなく、芸術作品として実に力強い。
――2人の画家は何を伝えようとしていると思うか。
まずミシェルの肖像画について話したい。人々はバラク・オバマがいかにクールかと言いたがるが、ミシェルこそクールの典型だ。彼女は自分の見せ方をはっきりと意識していて、著名な黒人女性として演じるべき役割を理解している。
これはあくまでも公式の肖像画であって、人物の心の奥深くや感情をあらわにする絵ではない。それでも、彼女そのものだ。
私は西アフリカのマリ出身の写真家セイドゥ・ケイタやマリック・シディベが撮影したアフリカ女性を連想した。美しい服地が空間いっぱいに広がり、カメラを見据える彼女たちの視線に圧倒される。エイミーがそれらの写真を見たかどうかは分からないが、同じ冷静さとスタイルがある。
――オバマの肖像画は?
ワイリーは無名の黒人青年を華美に描写した肖像画で知られている。有名な芸術作品の構図を使いながら、人物にはヒップホップ調の服やテニスシューズ、派手なジャージーなどを着せる。背景は精巧で多彩なパターン模様が多く、体の一部に模様を重ねる手法を好む。
(オバマの肖像画の全体像)
しかし、今回のモデルには自分をどのように表現したいかという思いがあり、ワイリーも「それを大切にしよう」と考えたそうだ。
――オバマの肖像画に黒人男性らしい力強さを感じると言う人も多い。
それこそワイリーらしさだ。大統領が、その瞬間に空間を支配していることを強く感じさせる。注目してほしいのは、オバマの持つオーラに作品が素直に従っていることだ。黒人男性の紛れもない代表であるというオーラと同時に、両手のしぐさが、繊細で、親身で、愛情と思いやりにあふれた彼の一面を物語っている。