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サウジアラビア

配車アプリは女性運転手2000人を採用 女性の運転解禁後のサウジアラビアで起きていること

2018年09月18日(火)16時00分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)


2011年にサウジアラビアで運転をした動画をYoutubeやSNSに投稿し、拘束された経験のあるマナル・アル・シャリフ


彼女たちは同国で運転した動画をYoutubeに投稿するなど、大胆な抗議を展開してきた。CNNの取材でイギリスの歴史家ロバート・レイシーは、これら一連の運転解禁直前の逮捕を「女性たちが声をあげたから運転が解禁になったのではなく、彼女たちに贈り物を与えたのはあくまでムハンマド皇太子たちだ」というメッセージを含んでいるのでは、と考察する。

このような絶対君主制のサウジアラビアでは、どのように「フェミニズム運動」を展開していくのが理想なのか。ロサンゼルス、パリ、ロンドンと飛び回り国際感覚をもつマリアムは、冷静にこう分析する。

「欧米流のマーチやプラカードを掲げて訴えるデモは、サウジアラビアの文化ではない」
「ここでは政府と闘うのではなく、手を取り合って、一緒に変化をつくっていく。サウジでは、そうすることで『The future is definitely female!(未来は確実に女性である!)』が実現すると思っている」

【参考記事】運転もさせないほど女性軽視だったサウジ、次の手はセクハラ対策

短期的な経済効果は自動車売上と自動車保険の伸び。長期では、女性の社会進出


『ブルームバーグ・エコノミクス』は女性の運転の解禁に伴い、2030年までに900億ドル(約9.9兆円)の経済効果がもたらされると予測している。さらにPwCの報告によると、女性の運転解禁の経済効果は、「短期」と「中間期・長期」に分かれるという。

短期間で見込める効果は、車の販売や自動車保険の伸びだ。車の販売は2025年までに年9%増、自動車保険市場は2017年から2020年までの3年間に年9%の成長が予測されている。それに伴い、「ブルームバーグ・エコノミクス」よると、今より車の使用が10%増えることで、国内で1日6万バレルのガソリン需要が増すという。

また、PwCは、中間期・長期的な経済効果として女性の社会進出をあげている。

サウジアラビアは全体の人口の70%が30歳未満と、若者が多い国だ。しかし、国際労働機関(ILO)の調べによると若い女性の失業率は46%と、職に就いている女性が圧倒的に少ない。

本誌の取材に答えてくれたシンクタンク「Middle East Institute」に所属する学者のズバイル・イクバルは、以下のように説明する。

「若者の失業率の高さは、地域の情勢が不安定の中、経済的にも政治的にもチャレンジとなる。しかし、この運転解禁によって、若くて教育受けた女性は職を得る機会が増えるだろう。一方で女性の労働による長期的な経済効果を狙うのであれば、石油以外の部門の成長と、女性の社会進出を促進しないといけない」「現在女性の労働者が集中している分野は教育、ヘルス業界、そして限られた範囲での情報処理や金融業界だ。これらは、今後も運転解禁によってプラスの効果が見込めるだろう」

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